手放した日から、お金が貯まりはじめた――マークIIとの別れ、そして23年
はじめに この連載では、両学長の『お金の大学』を羅針盤にしながら、私自身の家計改善の歩みを振り返っている。第4回では通信費の見直し、第5回では保険の見直し、第6回では住宅ローンの借り換えについて取り上げた。 今回は少し趣向を変えて、「固定費削減」の文脈でもっとも大きなインパクトをもたらしたテーマを書く。自動車だ。 ただし先に断っておくと、これは「クルマを持つな」という主張ではない。地方に住んでいれば、クルマは生活の根幹をなす移動手段だ。家族の事情や仕事の都合で、所有が合理的な選択になる場合も多い。この記事はあくまで、都市部に住む私の23年にわたる体験談である。参考程度に読んでもらえれば幸いだ。 なぜ手放したのか——2001年、32歳の決断 2001年、私は32歳だった。当時は大手運送会社に勤めており、業務でほぼ毎日ハンドルを握っていた。 その職場には、暗黙のルールがあった。「免許証に違反の傷をつけることは御法度」。 運送業において、運転免許は仕事そのものだ。違反点数が積み重なれば、最悪の場合は乗務停止になる。それは会社への迷惑であり、何より自分自身の収入が途絶えることを意味する。職場の先輩たちは口を揃えて言っていた。「プライベートでのっていて捕まったら笑えないぞ」と。 プライベートでも運転する頻度が高ければ、それだけヒヤリとする場面が増える。疲れたまま夜に乗れば判断が鈍る。渋滞でイライラすれば、いつもよりアクセルを踏み込んでしまう。事故や違反のリスクは、走行距離に比例して上がる。そう気づいた私は、仕事以外では極力クルマに乗らないと決めた。 そしてその延長線上で、所有していたトヨタ・マークIIを手放すことにした。 トヨタ・マークII(X90型)。私が所有していたのもこの世代。中古を現金130万円で購入し、2001年に無料引き取りで手放した。(Photo: Kruglovsasha / CC BY-SA 3.0) 売却ではなく、無料で引き取ってもらった。マークIIは中古車を現金一括130万円で購入しており、ローンの残債はなかった。だから手放すことへの金銭的な抵抗感は、思ったより小さかった。もちろん、130万円がゼロになる痛みはある。しかし「返済が残っていない」という事実は、決断を後押ししてくれた。 当時、リベ大の影響はまだない。純粋に、仕事上のリスク管理が動機だった。「家計改善のためにクルマを売った」という話ではなく、「仕事を守るためにクルマを手放した」という話だ。だが結果として、それが家計に大きなプラスをもたらすことになる。 所有していた頃のコスト:年間約57万円の重さ 当時の維持費を書き出してみると、以下のようになる。 費用項目 金額 駐車場代 月15,000円 → 年180,000円 ガソリン代 月20,000円 → 年240,000円 任意保険 年50,000円 自動車税(マークII) 年39,500円 車検費用 2年に1回120,000円 → 年換算60,000円 合計(概算) 年約569,500円 月に換算すると約30,000円。これが毎月、クルマのためだけに消えていた計算だ。 ただ、数字に表れないコストもあった。 クルマがあると、「特に用事がなくてもどこかへ行ける」。当時の私は、よくショッピングモールへふらりと出かけていた。目的なく店内を歩き、気づけば買い物をしていた。服を見ていたら欲しくなった。食品売り場で目に留まったものをカゴに入れた。駐車場代を払ったのだからと、フードコートで昼食をとった。クルマという移動手段が、意図しない消費行動を誘発していたのだ。 今思えば、これは「クルマが悪い」という話ではない。自分の行動パターンの問題だ。しかし「行けるから行く」「ついでに買う」という習慣が、家計にじわじわとダメージを与えていたのは確かだ。手放してからは、そういう行動パターン自体がなくなった。 手放してからの変化:支出と貯蓄に何が起きたか クルマを手放した後、維持費だけで月あたり約30,000円の支出が消えた。すべてをカーシェアで補うわけではないので、実際には月10,000円前後のカーシェア代で事足りるようになった。差し引き月20,000円、年間240,000円の支出減だ。さらに、クルマが誘発していた「ついで消費」が消えたことで、実質的な支出減少幅はそれ以上だったと感じている。 比較項目 所有時 現在 月あたり車関連支出 約30,000円(維持費のみ) 約10,000円(カーシェア) ガソリン・駐車場の固定費 あり なし 「ついで消費」の発生頻度 高い ほぼなし 車検の急な出費 あり(2年ごと) なし 浮いたお金はそのまま貯蓄に回った。 「貯まっている」と実感したのは、毎月・毎年クルマにまつわるお金のことをほとんど考えなくなったタイミングだった。車検の時期に慌てることも、駐車場代のために口座残高を確認することもなくなった。任意保険の更新案内に頭を悩ませることも、ガソリンの値上がりに一喜一憂することもなくなった。 その静けさの中で、気づけば毎年70〜80万円をコンスタントに貯蓄できるようになっていた。クルマを手放す前は、年に30万円貯められれば良いほうだった。その差は、クルマ代だけでは説明がつかない。固定費が消えたことで、日々の出費に対する意識そのものが変わったのだと思う。 「バス運転手」として、今もハンドルを握る 仕事の話を少し書かせてほしい。 運送会社を辞めた後、私は今の職場――バス会社に転職した。現在もプロのドライバーとして、毎日ハンドルを握っている。 だから今も、プライベートでクルマに乗る気にはなりにくい。仕事で8時間近く運転すれば、休日はハンドルから解放されたい。これは単純な「疲れ」の問題ではなく、「常に安全に運転し続けなければならない」という緊張感からの解放だ。プロのドライバーにとって、ハンドルを握ることは仕事であり、責任だ。プライベートまでそれを続けることに、メリットを感じない。 葛飾区という立地も、この生活を後押ししている。都内だから電車とバスのネットワークが発達しており、自転車でも十分に動ける。スーパーも病院も駅も、自転車10分以内に収まっている。クルマがなくて困ることは、ほとんどない。 この「仕事上の理由」と「立地の条件」が重なって、私の自動車なし生活は23年間、自然に続いてきた。 ...