「投資」と聞くと、頭のいい人がパソコンとにらめっこして、上がりそうな会社の株を当てる…そんなイメージはありませんか?

でも、水瀬ケンイチさんの『彼はそれを「賢者の投資術」と言った』は、まったく逆のことを教えてくれます。

主人公は、天才でもお金持ちでもない、ごくふつうの会社員。それどころか、20代のころは貯金ゼロ、車のローンを2台分もかかえた「ダメ男」でした。

そんな人が、25年後には約2億円の資産を持つまでになります。しかも、使った方法はとてもシンプル。この記事では、その25年間の物語と教えを、中学生でもわかる言葉でまとめてみました。

水瀬ケンイチ『彼はそれを「賢者の投資術」と言った』(Gakken)。25年の道のりを全公開した一冊。

ポイント1:スタートは「貯金ゼロのダメ男」

著者の水瀬さんは、IT企業ではたらくふつうの会社員です。

でも20代のころは、給料をぜんぶ使ってしまい、貯金はゼロ。車のローンまでかかえていました。「このままではやばい」と気づいたのが、すべての始まりです。

大事なのは、特別な才能があったわけではないということ。図書館を何カ所もはしごして、お金の入門書を片っぱしから10冊以上読む。そうやって、ゼロから勉強を始めただけなんです。

この本のすごいところは、25年間の資産の増え方が、金額のグラフとともにぜんぶ正直に公開されていること。うまくいった話だけでなく、失敗して落ちこんだ時期も包みかくさず書かれています。

だからこそ、「自分にはムリ」と思っている人にこそ、「ふつうの人でもできるんだ」という希望をくれるのです。

ポイント2:最初は「チャートに振り回されて」失敗した

水瀬さんも、最初から今のやり方だったわけではありません。

はじめは、株価のグラフ(チャート)とにらめっこして、「上がりそうな株」を当てようとしていました。値動きが気になって、仕事中もこっそりトイレで株価をチェックする毎日。水瀬さんは、この時期のことを「トイレ・トレーダー時代」と呼んでいます。

これ、スマホの通知が気になって、授業中でも何度もこっそり見たくなるのと似ていますよね。株価に心を支配されて、だんだん自分を見失っていったのです。

結果は、疲れるばかりでちっとも儲からない。「もっといい方法があるはずだ」と探し続けた末に、たどりついた答えが「インデックス投資」でした。遠回りしたからこそ、本物にたどりつけたというわけです。

ポイント3:答えは「詰め合わせパック」を買うこと

「インデックス投資」は、むずかしそうな名前ですが、中身はシンプルです。

ふつうの投資は、「この1社が伸びる!」と1社の株に賭けます。これは、運動会でたった1人の選手に全部を賭けるようなもの。当たれば大きいけれど、外れたらおしまいです。

いっぽうインデックス投資は、世界中の会社をまるごと「詰め合わせパック」で買うイメージ。「オルカン」と呼ばれる商品なら、たった1つ買うだけで、世界中の何千もの会社にまとめて投資できます。

だから、どれか1社がダメになっても、ほかの会社ががんばってくれるので、全体ではあまり困りません。カバンの中身をぜんぶ同じ教科書にせず、いろんな教科を入れておくようなもの。1つを忘れても、ほかで点が取れます。

しかも、毎月決まった額を自動で買っていくだけ。むずかしい予想も、特別なテクニックもいりません。これがいちばんかしこい方法だ、と水瀬さんは言います。

ポイント4:いちばん難しいのは「やめないこと」

やり方はとても簡単。でも、じつは最大の難関があります。それは「途中でやめたくなること」です。

投資の世界では、数年に一度、値段が大きく下がる「暴落」が起きます。ニュースは「大不況!」と大さわぎし、まわりの人もどんどん売り出します。自分のお金が半分になったら、こわくて「もう売っちゃおう」と思ってしまいますよね。

でも、下がったときに売るというのは、部活で一回試合に負けただけで「もうやめる」と言い出すのと同じ。しかも暴落のあとは、たいてい時間をかけて値段がもどっていきます。つまり、あわてて売る人は「一番安いときに手放す」という、いちばんもったいない行動をしているんです。

あわてて売ってしまうことこそ、いちばん大きな損につながる。

だからこそ、下がってもどっしり持ち続ける力が必要になります。

ポイント5:暴落の「予防接種」ができる本

では、どうすれば持ち続けられるのか。この本のいちばんの価値がここにあります。

水瀬さんは、2008年の「リーマンショック」という大暴落で資産が半分になってしまいました。コツコツ増やしてきたお金が、一気に消えていく恐怖。しかもインデックス投資をすすめていたので、ネットでは「ほら見たことか」と悪口の嵐にもさらされました。ものすごくつらい経験です。

でも、ここで売らずにじっとがまんして持ち続けた結果、数年後には資産はしっかり回復しました。そしてこの経験があったから、2020年の「コロナショック」で世界中がパニックになったときも、「この感じ、前にもあった。あわてて売るのが一番損だ」と冷静でいられたのです。

つまりこの本を読むと、水瀬さんの体験を借りて、暴落を疑似体験できるのです。予防接種で軽く病気を体験して本番に備えるのと同じ。だから、いざというとき慌てずにすみます。

ポイント6:「まさか」に備える貯金を残しておく

暴落のとき、いちばんやってはいけないのが「お金がなくて、しかたなく売る」こと。

たとえば急に病気やケガでお金が必要になったら、値下がりしている最悪のタイミングでも、投資を売るしかなくなります。

この本によれば、生活のための貯金を用意していない人は、最悪のタイミングで売ってしまう確率が3倍にもなるそうです。

だから、投資に回すお金とは別に、すぐ使える貯金(これを「生活防衛資金」といいます)を残しておくことが大切です。

これは、ゲームで言えば「いざというときのための回復アイテム」を持っておくようなもの。手元に余裕があれば、暴落が来ても「売らずに待つ」という正しい行動が取れます。この貯金こそが、暴落を乗りきるための「安全ネット」になるのです。

ポイント7:「なぜ続けられるのか」を知ると強い

じつは、インデックス投資は理屈を知らなくても続けられます。でも、「なぜこれでいいのか」がわかると、迷わなくなるのです。

本の後半では、続けられる理由が世界中の研究データで説明されています。たとえば、

  • 初心者の約6割が「安いときに買って高いときに売る、そのタイミングを当てるのが大事」と思っている。でも実際は、そのタイミング当てこそが成績を悪くする一番の原因だとわかっています。テストの点をねらって一夜漬けを繰り返すより、毎日少しずつ勉強したほうが伸びるのと同じです。
  • 欲ばって「あれもこれも」とたくさんの商品を買いすぎると、かえって成績が下がってしまうこともある。あれこれ手を広げすぎると、どれも中途半端になるのと同じですね。

つまり、頭を使って賢く立ち回ろうとするより、シンプルにコツコツ続けるほうが強い。理由がわかっていれば、まわりの「今が売りどきだ!」といった雑音にも振り回されなくなります。

ポイント8:タイトルの「彼」ってだれ?

最後に、タイトルの「彼」とはだれのことでしょう。

それは、経済評論家の山崎元(やまざき・はじめ)さん。水瀬さんと本を一緒に書いた仲間で、残念ながら亡くなってしまいました。

山崎さんは、「手数料の高い商品を売りたい」金融業界からきらわれることもいとわず、ふつうの人の味方になって「本当に正しいこと」を言い続けた人です。むかしの日本では、「市場全体と同じくらいの成績で満足する」というインデックス投資の考え方は、ほとんど理解されませんでした。それが今、「投資はまずインデックスから」と当たり前に言われるようになったのは、水瀬さんや山崎さんのような人たちが地道に伝え続けてくれたおかげなのです。

この本は、インデックス投資の教科書であると同時に、そんな山崎さんへの「ありがとう」の手紙でもあるのです。

まとめ:今日からできる3つのこと

『彼はそれを「賢者の投資術」と言った』の教えを、中学生の生活に置きかえるとこうなります。

  1. 少しずつ「続ける」練習をする(勉強でも運動でも、一発逆転より毎日コツコツが勝つ)
  2. 「まさか」に備えて、使わないお金を少し残しておく(お小遣いを全部は使いきらない)
  3. 一回の失敗であわてない(下がってもやめない人が、最後に笑う)

投資の本当のコツは、頭の良さでも運でもなく、「やめずに続ける心」。この本は、その心の育て方を、25年分の実話で教えてくれます。気になった人は、ぜひ本も読んでみてください!


私自身、5人の子を育てながらインデックス投資を続けてきた身として、この本の「ふつうの人が、遠回りしながらたどり着いた」という語り口には、ひとつひとつ深くうなずかされました。同じ著者を悼む一冊として、先日ご紹介した山崎元さんの『経済評論家の父から息子への手紙』とあわせて読むと、より胸に迫ります。これから投資を始める方の、最初の一冊にもおすすめです。

彼はそれを「賢者の投資術」と言った
水瀬ケンイチ/Gakken。貯金ゼロのダメ男が25年で約2億円。インデックス投資の全記録を、グラフとともに正直に公開した実話
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