「オルカン」を買ったら、あとは何を考えればいいの?──代田秀雄『オルカン思考』をやさしく要約

新NISAをきっかけに「とりあえずオルカンを積み立てている」という方は多いと思います。でも、こんな疑問を持ったことはありませんか? 「暴落したら、どうすればいいの?」 「いつまで持ち続ければいいの?」 「貯まったお金は、いつ・どうやって使えばいいの?」 今回紹介する『オルカン思考 世界経済を味方につける「長期投資」の教科書』(Gakken、2026年4月刊)は、こうした疑問にオルカンを作った本人が答えてくれる一冊です。 著者の代田秀雄(しろた・ひでお)さんは、三菱UFJアセットマネジメントの元常務で、約30年にわたって年金や投資信託の運用に携わってきた人物です。「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」、通称オルカンの生みの親として知られ、本書が初めての一般向けの著書になります。 この記事では、本書のエッセンスを8つのポイントに分けて、中学生が読んでもわかるくらいやさしく解説します。 ① 日本人は「貯めすぎ」ではなく「増えにくい形」で持っていた 本書はまず、日本と海外の「お金の増え方」の違いから始まります。 1995年〜2016年の約20年間で、家計の金融資産はアメリカが約3.3倍、イギリスが約2.3倍に増えたのに対し、日本は約1.5倍にとどまりました。 その理由は、日本人が怠けていたからでも、節約しなかったからでもありません。お金の「置き場所」の違いです。日本の家計は現金・預金が約5割を占めるのに対し、アメリカでは現金・預金は1割強で、株式・投資信託が4割以上を占めています。 日本人の問題は「貯めすぎ」ではなく、「増えにくい形」でお金を持ち続けてきたことにある。 たとえるなら、同じ給料をもらっていても、片方は全額を金利ほぼゼロの普通預金に、もう片方は一部を「成長する会社」に預けていた、という違いです。20年たつと、この差がはっきり資産の差になって表れるのです。 ② オルカンは「世界中の会社の詰め合わせ」 では、オルカンとは何なのでしょうか。ひとことで言えば、1本買うだけで世界中の株式にまとめて投資できる投資信託です。アメリカの大手IT企業から、新興国の成長企業まで、まるごと入っています。 身近なものにたとえると、「世界中の会社が少しずつ入った詰め合わせセット」。どこか1社がつまずいても、ほかの会社がカバーしてくれるので、ひとつの会社に全額を預けるよりもずっと安定しやすくなります。 本書では、オルカンが生まれた背景も語られています。かつての日本の投資信託には、手数料が高いものや、元本を取り崩してまで分配金を出す、いわゆる**「タコ足配当」**の商品が少なくありませんでした。著者はこうした状況に問題意識を持ち、低コストでわかりやすい商品づくりを目指したそうです。 その結果、オルカンは2018年に誕生し、8年足らずで純資産残高10兆円を超えるほどの人気ファンドに育ちました。 ③ プロでも「平均」に勝ち続けるのは難しい 「プロが銘柄を選んでくれる投資信託のほうが、成績がいいのでは?」と思うかもしれません。 しかし本書では、プロの投資家でも市場の平均に長く勝ち続けるのはとても難しいと説明されています。しかも、プロが運用する商品は手数料が高くなりがちです。 ここで大事になるのが**コスト(手数料)**です。手数料は、毎月引き落とされるサブスクの料金のようなもの。1回あたりは小さく見えても、何十年も払い続けると大きな差になります。 「市場をそのまま買う」インデックス投資は、平均点を低コストで確実に取りにいく方法である。 テストで毎回100点を狙うより、ミスなく平均点を取り続けるほうが、長い目で見ると結果的に上位に入れる——そんなイメージです。 ④ 投資とは「不確実性を引き受けること」 著者は、投資を**「将来の成長を期待して、不確実性を引き受ける行為」**だと定義しています。 つまり、投資は「○年後に必ず○円になる」と約束してくれるものではありません。どこまで増えるかを決めるのは、私たちではなく市場です。 だからこそ、目標金額だけにこだわりすぎないことが大切だと著者は言います。「あと○万円足りない」と数字ばかり気にしていると、値動きのたびに一喜一憂し、投資そのものが不安定になってしまうからです。 もちろん、株式である以上、数年単位で大きく値下がりする時期は必ずあります。過去のデータでは20年ほど持ち続けるとマイナスになりにくい傾向があるとされますが、これも「過去の傾向」であって、将来の保証ではありません。この点を正直に受け止めておくことが、長く続けるための土台になります。 ⑤ 勝つのは「市場に居続ける人」 本書のキャッチコピーにもなっているのが、「相場が荒れても、市場に居続ける人が最後に笑う」という考え方です。 「上がりそうなときだけ買って、下がりそうなら逃げればいい」——そう考えたくなる気持ちはわかります。でも、実際にそのタイミングを当て続けるのは、プロでもほぼ不可能です。 しかも、相場が大きく上がる日は、暴落のすぐあとにやってくることがよくあります。慌てて売ってしまうと、その「回復の日」を逃してしまうのです。 たとえるなら、毎月払っている保険を「今月は何も起きなさそうだから」と途中で解約するようなもの。肝心なときに守ってもらえず、払ってきた分の効果も小さくなってしまいます。投資も同じで、乗り続けていた人だけが、回復と成長の恩恵をまるごと受け取れるのです。 長期投資とは、相場を予測する技術ではなく、市場との関係を断たずに持ち続ける姿勢である。 ⑥ 積立は「やめない」こと、そして複利の力 長期投資でいちばん大切なのは、途中で積立をやめないことです。 相場が下がると「もうやめようかな」と思いがちですが、下がっているときこそ、同じ金額でたくさんの口数を安く買えるチャンスです。毎月決まった額を自動で積み立てる「定額積立」なら、気分に左右されずに続けられます。 そして、時間を味方につけると複利が働きます。複利とは、増えた分がさらに増えていく仕組みのこと。雪だるまが転がるほど大きくなるように、時間がたつほど増え方が加速していきます。 本書の第1章には「1億円貯まる」という言葉があります。参考までに私が試算してみると、毎月10万円を年5%で運用できた場合、30年で約8,300万円、35年で約1億1,400万円になります(あくまで仮の数字で、実際の運用成績は年によって大きくブレます)。大切なのは金額そのものより、「時間」と「続けること」が結果を大きく左右するという点です。 ⑦ アメリカが多いのは「市場をそのまま映している」から オルカンについてよく聞く疑問が、「中身の半分以上がアメリカ株なのに、本当に全世界に分散しているの?」というものです。 著者の答えはシンプルです。オルカンは、各国の株式市場の大きさ(時価総額)の比率をそのまま反映しているだけ。今アメリカの比率が高いのは、アメリカ企業の価値が世界の中で大きいからです。 もし将来、ほかの国が成長してアメリカの比率が下がれば、オルカンの中身も自動的に入れ替わります。自分で「次に伸びる国」を当てる必要がないのが、オルカンの強みです。 また本書では、人気の高配当株との付き合い方にも触れられています。配当は魅力的に見えますが、減配のリスクや株価下落の可能性もあるため、「配当の多さ」だけで判断しない冷静さが大切だと言えます。 ⑧ 投資は「増やしながら使う」もの 本書でいちばん特徴的なのが、第4章・第5章の**「お金の使い方」**の話です。 多くの投資本は「どう増やすか」で終わりますが、著者は「資産を増やすのは通過点にすぎない」と言います。住宅の購入、子どもの教育費、旅行や趣味——人生には、お金を使うべき大切な場面がたくさんあります。 そこで提案されているのが、「増やしながら使う」という考え方です。全部を売って現金化する「ゴール」を決めるのではなく、運用を続けながら必要な分だけ取り崩していく。そうすれば、残りのお金は引き続き世界経済とともに育ってくれます。 資産のバランスについては、**「100マイナス年齢」**を株式の割合の目安にする方法などが紹介され、年齢や人生のステージに合わせて「攻め」と「守り」の比率を調整していく考え方が示されています。 必死に貯めたまま人生を終えるのではなく、増やしたお金で人生を味わうこと。それが「オルカン思考」の本当のゴールである。 今日からできる3つのこと 1. 自分のお金の「置き場所」を確認する 預金と投資の割合を、一度紙に書き出してみましょう。生活防衛資金を確保したうえで、使う予定のないお金が「増えにくい形」で眠っていないかチェックします。 ...

October 1, 2026

お金が貯まらないのは「心」のせい?──大嶋信頼『お金持ちになる人の心理学』をやさしく要約

「節約も投資もがんばっているのに、なぜかお金の不安が消えない」 「仕事で力を出し切れず、気づけば収入も伸び悩んでいる」 そんなモヤモヤを抱えたことはありませんか? 今回紹介するのは、心理カウンセラー・大嶋信頼(おおしま のぶより)さんの『お金持ちになる人の心理学』(PHP研究所、2020年)です。家計簿や投資術の本ではなく、「お金と心の関係」に焦点を当てた、ちょっと変わった一冊です。 この記事では、中学生が読んでもわかるくらいやさしい言葉で、本のポイントを8つにまとめました。 著者・大嶋信頼さんってどんな人? 大嶋さんは、株式会社インサイト・カウンセリングの代表を務める心理カウンセラーです。アメリカのアズベリー大学で心理学を学び、依存症の専門病院などで経験を積んだあと、独自のカウンセリング法(FAP療法)を生み出しました。 本の中では、ご自身の「うまくいかなかった過去」を面白おかしく、正直に語っているのが特徴です。難しい理論書というより、カウンセラーの体験談を聞いている感覚で読み進められます。 ポイント1:感情に流されると「貧乏神」が寄ってくる 本の最初で強調されるのが、感情、とくに「怒り」に振り回されるとお金のチャンスが逃げていくということです。 たとえば、職場でちょっとした一言にカッとなって関係を切ってしまう。すると、その人から回ってきたかもしれない仕事や情報、人とのつながりも一緒に失われます。 怒りで人間関係を切るたびに、未来の収入の「入り口」を自分でふさいでいる。 毎月こっそり引き落とされるサブスクのように、感情による損失は目に見えにくいぶん、気づかないうちに積み重なっていくのです。 お金持ちになる人は、感情がないわけではありません。ただ、感情に「ハンドル」を握らせないのです。怒りを感じても、その場で人間関係を壊すような決断はしない。この小さな差が、長い目で見ると大きな収入の差になっていく、と大嶋さんは考えています。 ポイント2:「かわいそう」が搾取を生むことがある 意外なのが「同情」の話です。相手を**「かわいそう」と思って親切にしすぎると、心の距離が近づきすぎてしまう**と大嶋さんは言います。 距離が家族並みに縮まると、相手の中に「困ったら頼って当然」という気持ちが生まれ、お金や時間を当たり前のように求められるようになることも。 身近な例でいえば、「かわいそうだから」と何度もお金を貸しているうちに、返してもらうどころか、貸すのが当たり前になってしまうケース。断れば「冷たい人」と責められ、結局こちらが悪者のような気持ちにさせられます。 親切そのものは悪くありません。ただ、人との間には適度な「心の距離」が必要だという視点は、お金を守るうえでも大切です。 ポイント3:あなたの足を引っ張る正体は「嫉妬」 この本のいちばん大きなテーマが**「嫉妬」**です。 仕事ができるのに、なぜか実力を発揮できない。行き詰まって会社を辞めてしまう。多くの人はそれを「自分がダメだから」と責めます。 しかし大嶋さんは、その背景に周りの人からの嫉妬があると指摘します。能力がある人ほど目立ち、無意識のうちに足を引っ張られやすい、というわけです。 ここでいう嫉妬は、あからさまな意地悪だけではありません。「すごいね」と言いながら小さなミスをことさら指摘されたり、なぜか大事な情報が自分にだけ回ってこなかったり。相手自身も気づいていないような、静かな嫉妬も含まれます。だからこそ、された側は「自分のせいだ」と思い込んでしまうのです。 うまくいかないのは、あなたの能力不足ではなく、周りの嫉妬の影響かもしれない。 自分を責め続けて元気をなくし、働けなくなり、お金の面でも追い込まれる――この悪循環を断つために、まず原因を知ることが第一歩だと本は語ります。 ポイント4:「呪いの暗示」が能力にフタをする 嫉妬と深く関係するのが**「呪いの暗示」**という考え方です。 「あなたには無理よ」「調子に乗らないで」――何気なくかけられた言葉が、心の奥に残り、自分の力を封じ込めるブレーキになってしまうことがあります。 車のサイドブレーキを引いたままアクセルを踏んでいる状態を想像してください。どれだけ頑張っても前に進みにくく、燃料(エネルギー)ばかり減っていきます。お金に困る状況を、実は自分で作り出していることもある、というのが本書の見方です。 たとえば、昇進の話が来たのに「自分には荷が重い」と反射的に断ってしまう。副業を始めたいのに「どうせ失敗する」と一歩が出ない。こうした理由のはっきりしないブレーキの裏に、昔かけられた言葉が隠れていることがある、と大嶋さんは言います。 ポイント5:感情は「うつる」 大嶋さんは、脳の**「ミラーニューロン」**という働きにも触れています。これは、相手の動きや気持ちを、まるで鏡のように自分の中でまねする仕組みのことです。 つまり、イライラしている上司のそばにいると自分までイライラしてくる、不安な人と話していると自分まで不安になる――他人の感情が知らないうちに自分にうつる、ということ。 お金の不安も、実は自分のものではなく、周りから「もらってしまった」ものかもしれません。そう気づくだけで、少し気持ちが軽くなります。 株価が大きく下がったとき、ニュースやSNSの悲観的な声に引きずられて、つい積立投資をやめたくなる――これも「感情の伝染」の一種と言えるでしょう。自分の判断なのか、周りの空気にのまれているだけなのかを見分けることが、お金を守る力につながります。 ポイント6:罪悪感・謙虚さ・反省は「要らない」 ドキッとする主張ですが、本書では罪悪感や行き過ぎた謙虚さ、反省は要らないとまで言い切ります。 もちろん「何をしてもいい」という意味ではありません。必要以上に自分を責めたり、へりくだったりすると、自分の価値を低く見積もり、チャンスや正当な報酬を自ら遠ざけてしまうという意味です。 給料交渉で「私なんてまだまだです」と引いてしまう場面を思い浮かべると、わかりやすいでしょう。仕事の値段を安く見積もる習慣は、そのまま収入の天井になってしまいます。 また、失敗のたびに何日も反省し続けると、心のエネルギーがどんどん減っていきます。反省は短く、次の一歩は早く。そのほうが結果的に、仕事でもお金でも前に進めるというわけです。 ポイント7:「無意識さん」と「意識」のバランス 第2章の主役は**「無意識さん」**です。大嶋さんは、心の中の「無意識」を親しみをこめてこう呼びます。 考えて判断する「意識」も大事ですが、そればかりだと嫉妬や感情の影響を受けやすくなります。一方、無意識の力を上手に使えると、嫉妬の影響から自然と抜け出せると本は説明します。 大切なのは、どちらか一方ではなくバランスです。会社の経営に「きちんと管理する仕組み」と「現場の自然な判断」の両方が必要なのと似ています。 また、物事を**「客観的に見る」**ことの大切さも繰り返し語られます。感情という色メガネを外して、事実をそのまま見る練習です。本の中では、有名な催眠療法家ミルトン・エリクソン博士が、患者についての客観的なデータを集め、自分の思い込みを取り除く努力を重ねていたエピソードも紹介されています。 ポイント8:「知能指数のジオラマ」と「足の裏の感覚」 第3章では、本書独自の方法**「知能指数のジオラマ」**が紹介されます。自分の心に問いかけて、自分や周りの人の「知能指数」を感じ取り、それをジオラマ(模型)のように並べて眺めることで、人間関係を客観的に見るというユニークなワークです。 ここでいう知能指数は、テストの点数のような数字そのものより、「自分と相手の立ち位置を冷静にとらえるための物差し」と考えるとわかりやすいでしょう。相手との関係を上から眺めることで、「なぜこの人といると疲れるのか」「なぜ自分は遠慮してしまうのか」が見えやすくなる、というのが狙いです。 そしてエピローグでは、**「足の裏の感覚を感じる」**というシンプルな方法が紹介されます。不安で頭がいっぱいになったとき、意識を足の裏に向けると、ふわふわした気持ちが「今ここ」に戻ってくる――そんなイメージです。 お金の不安で頭がいっぱいのときほど、足の裏に意識を向けてみる。 この本との上手な付き合い方 正直にお伝えすると、この本は科学的なデータで証明された理論書ではありません。「催眠」や「知能指数のジオラマ」など、著者独自の考え方も多く、レビューでも「納得できる」という声と「根拠が弱い」という声に分かれています。 また、具体的な節約術や投資の方法は書かれていません。家計管理や資産運用の知識は、別の本で身につける必要があります。 それでも、「お金の問題は、お金だけを見ても解決しない」という視点は、資産形成を続ける大人にとって大切なヒントです。うまくいかない時期に、自分を責めすぎないための**「心のメンテナンス本」**として読むのがおすすめです。 今日からできる3つのこと 1. 怒りを感じたら、すぐに行動しない イラッとしたら一晩おく。それだけで、人間関係とチャンスを守れます。 2. 「この不安は本当に自分のもの?」と問いかける 周りから感情がうつっているだけかもしれません。心の中で「客観的に見る」と唱えてみましょう。 3. 不安なときは足の裏を感じる 深呼吸して、足の裏が床についている感覚に集中するだけでOKです。 ...

October 1, 2026

なぜ「まじめに働く人」ほどお金が残らないのか?──橘玲『新版 お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』をやさしく要約

「毎月まじめに働いて、無駄づかいもしていない。それなのに、なぜか手元にお金が残らない」 そう感じたことはないでしょうか。実はそれ、あなたの努力が足りないからではないかもしれません。 今回ご紹介するのは、橘玲さんの『新版 お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 知的人生設計のすすめ』(幻冬舎文庫)です。 著者の橘玲さんは2002年に国際金融小説『マネーロンダリング』でデビューし、同じ年に出た本書の初版は30万部を超えるベストセラーになりました。その後12年ぶりに全面改訂され、2017年に文庫版として生まれ変わったのがこの一冊です。 タイトルにある「黄金の羽根」とは何なのか。それは、制度の歪みがもたらす幸運のこと。知っている人だけが拾えて、拾った人には大きな利益をもたらす。そういう羽根が、実は私たちの足元にたくさん落ちている、という話です。 ちょっと過激に聞こえるかもしれませんが、中身は驚くほど地に足がついています。今日はこの本の要点を、8つに絞って紹介します。 1. お金持ちになる方法は、世界にたった3つしかない この本の出発点は、シンプルな一本の式です。 資産形成=(収入-支出)+(資産×運用利回り) つまり、お金を増やす方法は「収入を増やす」「支出を減らす」「利回りを上げる」の3つしかない。裏ワザも近道もなく、これがすべてです。 大事なのは、この3つの効きやすさが全然違うということ。収入を上げるのは時間がかかり、利回りは自分ではコントロールできません。一番確実なのは支出を減らすことです。 2. いちばん強い資産運用は「共働き」 本書が強調するのは、世帯単位で考えることの重要性です。 1億円の資産保有を経済的独立と定義すれば、特別な才能がなくても、勤勉と倹約、それに共稼ぎで目標に到達できると著者は言います。 夫婦がそれぞれ年収400万円なら世帯年収は800万円。生活費は一人暮らし二人分より安く済みます。この「差額」が、どんな高利回り商品よりも確実に効いてきます。 考えてみてください。年収400万円の人が定年まで働けば、生涯で1億円を超えるお金を稼ぎます。つまり私たちは全員、1億円規模の資産をすでに持っているとも言えるのです。人的資本(働いて稼ぐ力)こそが、多くの人にとって最大の資産。投資商品を探す前に、この資産をどう活かすかを考えるほうが、はるかに効率がいいわけです。 3. 支出を減らすとは「税金と社会保険料」に目を向けること 節約というと、食費や電気代を思い浮かべます。でも本書が問題にするのは、給与明細から天引きされている税金と社会保険料です。 額面30万円でも、手取りは24万円ほど。差の6万円は、多くの人が「見なかったこと」にしています。年間にすれば72万円。これは家賃とほぼ同じ規模です。支出の中で最大の項目は、実は税と社会保険料。ここを直視することが出発点になります。 スーパーで10円安い卵を探すのは熱心なのに、月6万円の天引きは一度も計算したことがない。多くの人がそうなっているのは、給与から自動的に引かれる仕組みだからです。痛みを感じないように設計されている、と言い換えてもいいかもしれません。だからこそ、意識的に見にいかないと一生見えないコストなのです。 4. 運用は「リターン」ではなく「コスト」で決まる 投資について、本書の結論は拍子抜けするほど地味です。投資のリターンを常に高く保ち続けるのは不可能なので、コストを下げることで実質的な利回りを上げるのが確実だというもの。 投資のコストに気づかない人は、お金持ちになれない 手数料の高い銀行や証券会社の窓口ではなく、手数料の低いネット証券を使うことがすすめられています。年1.5%の手数料は、20年で資産の3割近くを削ります。リターンは運任せ、コストは自分で決められる。ならばコストに集中すべきです。 5. 持ち家は「レバレッジをかけた不動産投資」 「家賃はもったいない、買ったほうが得」──よく聞く話です。 しかし本書は、住宅ローンを組んで家を買う行為を、借金をして不動産に集中投資することだと言い切ります。頭金500万円で5,000万円の物件を買えば、10倍のレバレッジをかけているのと同じ。価格が1割下がれば頭金は消えます。 ローンで買った持ち家と賃貸は、手元に残るかどうか以外、資産としての価値は同じという指摘は冷静です。 さらに厄介なのは、持ち家が分散のきかない一点集中投資だということ。株式なら世界中の企業に分けて持てますが、家は「その街のその一戸」にすべてを賭けることになります。しかも住んでいる限り、値下がりしても簡単には売れません。 本書は「家を買うな」とは言っていません。ただ、人生で最も大きな投資判断をしているという自覚を持てということです。「みんな買っているから」で数千万円を動かすのは、さすがに危うい。 6. 生命保険は「損をすること」に意味がある 保険は、加入者全体で見れば必ず損をする仕組みです。集めた保険料から会社の経費と利益を引いた残りしか払い戻されないからです。 では無意味かというと、そうではありません。保険の役割は、めったに起きないが、起きたら生活が崩壊する事態にだけ備えること。 だから貯蓄型保険で「損しない」ようにするのは的外れで、掛け捨てで必要な保障だけ買い、浮いたお金は自分で運用するほうが理にかなっている、というのが本書の立場です。 7. サラリーマンは「個人と法人」を使い分けられない この本の核心が、ここです。 サラリーマンと個人事業主の決定的な違いは、会計・税務・ファイナンスという、お金の根幹の業務を会社に委託してしまっているかどうかにあります。だからサラリーマンは、税や社会保険料を自分でコントロールできません。 日本の税制では自営業者や中小企業が実質的に優遇されており、いわゆる「お金持ち」の多くは成功した自営業者か中小企業の経営者です。本書はここに制度の歪み、つまり黄金の羽根を見つけ、マイクロ法人(一人会社)を立てて「個人」と「法人」ふたつの人格を使い分けるという方法を詳しく解説します。 もちろん誰にでもすぐできる話ではありません。ただ、会社員という働き方が制度上どういう位置にあるのかを知っておくことには、大きな価値があります。 8. 知識社会では「スペシャル」に賭ける 最後は働き方です。本書が描く現代は、グローバル化した知識社会。個人そのものが力になり、そこから富が生まれる社会です。 だからこそ、人的資本を最大化するには、広く浅くではなく専門性に特化することが重要になります。誰でもできる仕事は代替されますが、その人にしかできない仕事には価格がつきます。 ここでいう専門性は、難関資格を取れという話ではありません。「この分野なら、あの人に聞けばいい」と周囲から思われている状態をつくることです。今の職場で自分が何の担当として認識されているか。それが自分の値札になります。 そして本書全体を貫くのは、国家は敵でも味方でもなく、人生を最適設計するための道具にすぎないという視点です。制度を恨むのでも従うのでもなく、理解して使う。それがこの本の姿勢です。 私がこの本を読んで感じたこと 正直に言うと、この本は読んでいて少し居心地が悪くなります。「知らなかった自分」を突きつけてくるからです。 私自身、資産形成の中心はインデックス投資です。本書の「コストに集中せよ」という主張は、まさに自分がやってきたことの答え合わせでした。相場を読むのをやめて、手数料の低い商品を淡々と積み立てる。地味ですが、これ以上に再現性の高い方法を私は知りません。 一方で、不動産の章は身につまされました。私は賃貸経営もしていますが、実際にやってみると、家賃が入ってくる喜びの裏に、修繕、空室、入居者対応といった現実の負担が確かにあります。不動産は「持っているだけで儲かる資産」ではなく、手間と判断が伴う事業です。本書がマイホームを「レバレッジをかけた投資」と呼ぶのは、決して大げさではないと感じます。 そして一番刺さったのは、税と社会保険料の話でした。 知らないことは、それ自体がコストになる 制度は、知っている人に有利にできている。それを不公平だと嘆いても何も変わりません。できるのは、まず知ることだけです。この本は、そのスタート地点に立たせてくれる一冊でした。 ...

September 8, 2026

お金持ちになるのに「頭の良さ」はいらない?──世界で600万部売れた『サイコロジー・オブ・マネー』をやさしく解説!

「お金の勉強」と聞くと、むずかしい計算や投資のテクニックを想像しませんか? でも、世界中で600万部も売れた大ベストセラー『サイコロジー・オブ・マネー』(モーガン・ハウセル著)は、まったく逆のことを教えてくれます。 「お金で成功するかどうかは、頭の良さよりも“心の持ち方”で決まる」 著者のモーガン・ハウセルさんは、アメリカの有名な金融コラムニスト。この本はウォール・ストリート・ジャーナル紙から「ここ数年で最高かつ、最も独創的なお金の本」と絶賛され、日本でも21万部を超えるヒットになっています。 この記事では、この本の大事なポイントを8つにしぼって、中学生が読んでもわかるくらいやさしい言葉でまとめました。「投資はむずかしそう」と感じている人にこそ、読んでほしい内容です。 ポイント1:清掃員が8億円を残せた理由 この本の冒頭には、ロナルド・リードさんという実在の人物が登場します。彼はガソリンスタンドの店員や清掃員として一生働いた、ごくふつうの人。高い給料をもらっていたわけでも、宝くじに当たったわけでもありません。 ところが92歳で亡くなったとき、なんと約8億円もの財産を残していたことがわかり、アメリカ中が驚きました。 秘密は特別な才能ではありません。彼がやったのは、 収入の一部をコツコツ先取りで貯蓄する それを優良企業の株に投資して、何十年もほったらかしにする たったこれだけです。 一方で本には、リチャード・ファスコーンという超エリートの金融マンも登場します。ハーバード大学出身で大企業の役員にまでなった彼は、無理な借金で豪邸を買い、リーマンショックで破産してしまいました。 学歴も知識も完璧だった人が失敗し、ふつうの清掃員が大成功した。つまり、**お金は「知識」より「行動と習慣」**で決まるのです。これが本書全体を貫くメッセージです。 ポイント2:「複利」は雪だるまと同じ この本でいちばん大事な言葉が「複利(ふくり)」です。 複利とは、増えたお金がさらにお金を生むしくみのこと。雪だるまを転がすと、大きくなるほど一回転でくっつく雪の量が増えますよね。あれとまったく同じです。 たとえば100万円が毎年10%ずつ増えるとします。1年目は110万円、2年目は121万円…と最初はじれったいほどゆっくり。でも50年続けると、なんと約1億1,700万円。100倍以上です。増え方が「たし算」ではなく「かけ算」になるのが複利のすごさです。 世界一有名な投資家ウォーレン・バフェットの財産は約10兆円ですが、そのほとんどは、じつは65歳をすぎてから増えたもの。彼のすごさは天才的な投資テクニックよりも、「10歳のころから80年以上、投資をやめなかったこと」なんです。 もしバフェットが30歳で投資を始めて60歳でやめていたら、財産は今の1%にも届かなかったと著者は計算しています。 時間こそが最強の武器。「投資を始めるのに最適な日は、いつだって今日」なのです。 ポイント3:成功には「運」もまじっている ちょっと意外なポイントがこれ。著者は「成功は実力だけでは決まらない。運の要素も大きい」とはっきり言います。 マイクロソフトを作ったビル・ゲイツは、1968年当時、世界でもほとんど例のない「コンピューターが自由に使える高校」に通っていました。100万人に1人レベルの幸運です。もちろん彼の努力と才能は本物ですが、あの環境がなければ、今のマイクロソフトはなかったかもしれません。 ここから学べる教訓は2つあります。 成功した人のマネを全部しても、同じ結果にはならない(その人の運までコピーできないから) 失敗した人を「努力不足だ」と責めすぎない(運が悪かった部分もあるから) だから、SNSで話題の「億り人」の派手な手法をマネするより、多くの人に長く当てはまる「地味だけど確実なパターン」(コツコツ積み立てて長く続ける、など)に注目したほうがいい、というわけです。 ポイント4:「もう十分」と言える人が最後に勝つ お金で失敗する人に多いパターンは、「もっと、もっと」と欲張ってしまうことです。 本書には、何百億円も持っていたのに、さらに儲けようと違法な取引に手を出して人生を台なしにした大富豪たちの話が出てきます。彼らに足りなかったのは、お金ではなく「足るを知る心」でした。 著者はこう言います。 「もう十分」と思える気持ちこそが、いちばん大切なお金の能力だ。 ゴールのないマラソンを走り続ければ、必ずどこかで倒れます。年収が上がっても、周りと比べて「まだ足りない」と感じ続ける限り、いつまでも満たされません。 そして著者は、どれだけ儲かる話でも絶対に賭けてはいけないものを3つ挙げています。「評判・自由・家族や友人」。この線引きを持っている人が、最後に勝つのです。 ポイント5:本当のお金持ちは「見えない」 高級車、ブランドものの時計、豪華な旅行の写真――。SNSにはお金持ちっぽい人があふれています。 でも著者は面白いことを言います。「高級車に乗っている人は、車にお金を使ってしまった人。本当の富は、使われずに残っているお金だから、目に見えない」。 ポイント1のリードさんを思い出してください。彼が8億円持っていると気づいた人は、生前ひとりもいませんでした。見た目はただの倹約家のおじいさんだったからです。 つまり、「お金持ちに見えること」と「お金持ちであること」は正反対とすら言えるのです。同僚の新車や知人のタワマン暮らしがうらやましくなったときは、この言葉を思い出してみてください。 ポイント6:貯蓄は「自由」を買うためのもの 「なんのために貯蓄するの?」と聞かれたら、この本の答えはシンプルです。 自由を買うため。 お金があると、 嫌な仕事を「嫌だ」と断れる 病気や失業などのトラブルがあってもあわてない 自分の好きなことに、好きなタイミングで時間を使える つまり、貯蓄とは「自分の時間を自分でコントロールする力」を手に入れることです。 著者によると、幸福度を大きく左右するのは収入の高さそのものより、「自分の生活を自分で決められている感覚」なのだそうです。高級車やブランド品よりも、じつはこれがいちばんの贅沢だと著者は言います。 そしてもうひとつ大事なのが、「理由がなくても貯蓄していい」ということ。「マイホームのため」「老後のため」と目的がなくても、貯蓄そのものが未来の選択肢を増やしてくれるからです。転職したくなったとき、家族に何かあったとき、面白いチャンスが目の前に現れたとき――手元にお金がある人だけが、自分の意志で動けます。 ポイント7:未来は予想できない。だから「余裕」を持とう 天気予報だって外れるのに、何年も先の経済を正確に予想できる人はいません。リーマンショックも、コロナショックも、ほとんどの専門家は予想できませんでした。 だからこそ大事なのが「余裕(よゆう)を持つこと」。本書では「誤りの余地(room for error)」と呼ばれています。 生活費の全部を投資に回さず、現金も残しておく 「予想が外れても大丈夫」な家計の計画を立てる 「これくらい増えるはず」というリターンの見積もりは、少し低めにしておく 車のシートベルトと同じです。事故が起きると思って乗る人はいないけれど、万が一のために必ずつける。お金も同じ考え方で守るのです。 「余裕なんてもったいない」と思うかもしれませんが、余裕があるからこそ、大暴落が来ても投資をやめずに続けられる。つまり余裕は、ポイント2の複利を最後まで働かせるための「保険」でもあるのです。 ポイント8:完璧な正解より「続けられる方法」を選ぶ 最後は、著者のいちばん現実的なアドバイスです。 数学的にいちばん正しい方法があっても、途中でやめてしまったら意味がない。それより、多少ゆるくても「自分が安心して続けられる方法」のほうが、結果的にうまくいく――著者はこれを「合理的(rational)であるより、理にかなっている(reasonable)ほうがいい」と表現します。 ダイエットに例えるとわかりやすいです。栄養学的に完璧でも味気ない食事メニューは、たいてい三日坊主で終わります。それより、少しゆるくても続けられるメニューのほうが、1年後には確実にやせている。資産づくりもまったく同じです。 たとえば、理論上いちばん効率的な投資配分でも、暴落のたびに不安で眠れなくなって売ってしまうなら、その人には向いていません。それより、現金を多めに残した「ゆるい配分」で、どんな相場でも淡々と積み立てを続けられるほうが、長い目で見れば資産は育ちます。 ...

August 8, 2026

「1億円ためないと自由になれない」って本当?──『「パラレルインカム」のはじめ方』をやさしく解説!

「FIRE(経済的自立と早期リタイア)」という言葉を聞いて、こう思ったことはありませんか? 「1億円ためて仕事を辞める? そんなの、自分には無理だ」 たしかに、よくあるFIRE本のゴールはかなり遠い場所にあります。でも、この『「パラレルインカム」のはじめ方』が教えてくれるのは、「仕事は辞めない。それでも自由になる」という第三の道です。表紙にも「年収300万円からできる進化版FIRE」と書かれています。 今回は、この本の考え方を、むずかしい言葉をできるだけ使わずに解説します。投資の知識がゼロでも、最後まで読めば「自分は次に何をすればいいのか」がはっきりするはずです。 著者はどんな人? 著者は泉正人(いずみ・まさと)さん。累計64万人が学んだといわれるマネースクール「ファイナンシャルアカデミー」の代表です。監修も同アカデミーが担当しています。 自分自身が会社を立ち上げ、気づけば「パラレルインカム」を実践していた——という体験がベースになっているので、机上の空論ではなく、実際に歩いた道の話として読めるのが特徴です。 ポイント1:「お金のなる木」を2本持つ パラレルインカムとは、直訳すると「収入の複線化」。会社の給料という1本の線と並べて、もう1本の収入の線を通す、という意味です。 大事なのは、その2本目が「アルバイト」ではないということ。 労働所得(働いて得るお金) + 資産所得(働かなくても入ってくるお金) これがパラレルインカムの正体です。本書では、これを「お金のなる木を2本持つ」と表現しています。1本目は自分で水をやり続ける木、2本目は勝手に実をつけてくれる木、というイメージです。 副業をもう1つ増やすのは、水やりする木を増やすのと同じ。収入は増えても、時間はどんどん減っていきます。目指すのは、そこではありません。「休んでも止まらない流れ」を1本つくることが、この本の出発点です。 ポイント2:FIREとのいちばん大きな違いは「仕事を辞めないこと」 FIREは「早期リタイア」、つまり仕事を辞めるのがゴールです。でも著者は、そこに疑問を投げかけます。 辞めたあと、時間を持て余してしまう人が意外と多いからです。 パラレルインカムでは、仕事は続けます。ただし、お金のためだけにイヤイヤ続ける仕事ではなく、「好きだからやる仕事」に変えていく。ここが決定的な違いです。 学校でも会社でも、「やらされている作業」と「自分で選んだ活動」では、同じ時間でも疲れ方がまるで違いますよね。パラレルインカムが目指すのは、後者の状態です。 さらに、仕事を続けることには現実的なメリットもあります。収入の柱が2本あれば、片方が不調でも生活は崩れません。株価が下がった年も給料は入るし、病気や転職で働けない時期があっても資産所得が支えてくれる。辞めないという選択は、安全装置でもあるのです。 ポイント3:ゴールは「1億円」ではなく「生活費 < 資産所得」 この本のゴールラインは、とてもシンプルです。 毎月の生活費を、資産所得が上回ること たとえば生活費が月20万円なら、資産所得が月20万円をこえた瞬間、あなたは「働かなくても生きていける状態」になります。そこから先の労働は、生活のためではなく、やりたいからやる労働に変わります。 「1億円」という数字を目標にすると気が遠くなりますが、「月20万円」なら、まだ手が届きそうに感じませんか。ゴールの置き方を変えるだけで、道のりの見え方は変わります。 しかも、このゴールにはもう1つの近づき方があります。それは、生活費のほうを下げること。生活費が月30万円の人と月18万円の人では、必要な資産所得がまったく違います。支出を見直すことは、我慢ではなくゴールラインを自分のほうへ引き寄せる作業なのです。 ポイント4:順番をまちがえない「4つのステップ」 本書は、実現までの道のりを4つの段階に分けています。 労働所得を増やす 資産構築をする(増えた分をためて、元手をつくる) 資産所得をつくる(元手を働かせる) 仕事でも自己実現を達成する ここで大事なのは、順番を飛ばさないことです。 いきなりステップ3から始めようとする人は、とても多い。でも元手がない状態で資産所得だけを追いかけるのは、練習せずに試合に出るようなものです。まずは本業の収入を上げ、支出をコントロールして、種を確保する。地味ですが、ここが土台になります。 ポイント5:「お金の7か条」から学ぶ、日常の習慣 本書の第2章には、暮らしの中で効いてくる7つの心がまえがまとめられています。特に取り入れやすいのが、この2つです。 ① 欲しいものを買う前に、お金を迂回させる 給料が入ったら、使う前に一部を別の場所へ「迂回」させる。いわゆる先取り貯蓄です。残ったお金で暮らす仕組みにすれば、意志の強さに頼らなくてすみます。 ② 資産運用は「自転車の運転」と考える 自転車は、本を読んだだけでは乗れません。最初は転びます。でも一度乗れるようになれば、一生忘れない。運用も同じで、小さく始めて体で覚えるものだ、という考え方です。 7か条にはほかにも、「お金に働いてもらうことをポジティブにとらえる」「投資の本当のリスクを知り、コントロールする」といった項目が並びます。リスクはゼロにするものではなく、正体を知って手なずけるもの——この姿勢が本書全体を貫いています。 ポイント6:「失敗から学ぶ」より「成功から学ぶ」 「失敗は成功のもと」とよく言われますが、著者の考え方は少しちがいます。 失敗を避けるノウハウと、成功するノウハウは、別物だからです。 失敗をいくら分析しても、それは「やってはいけないこと」のリストが増えるだけ。実際にうまくいっている人のやり方を聞いて、まねをするほうがずっと近道だ、と本書は言います。 部活でも、ケガの原因を研究するより、うまい先輩のフォームを見よう見まねでコピーするほうが上達が早い——そんな感覚に近いかもしれません。ただし、まねる相手は自分が行きたい場所に実際にたどり着いた人を選ぶこと。SNSにあふれる成功談を見分ける目だけは、自分で育てる必要があります。 ポイント7:「FIREの5倍ラク」の根拠と、その注意点 本書のタイトルにもなっている「進化版FIRE」。著者はパラレルインカムを「FIREの5倍ラク」と表現します。 その根拠が、この対比です。 年400万円を得るために必要な元手 FIREの「4%ルール」 1億円 不動産の「20%ルール」 2,000万円 金額が5分の1になるから「5倍ラク」というわけです。本書が資産所得の手段として不動産投資をすすめているのは、この効率の良さが理由です。 ただし、ここは正直に書いておきます。この計算は、借入(ローン)を使うことが前提です。空室、修繕、災害、金利の上昇といったリスクもあり、株式のインデックス投資とくらべて、必要な知識と手間は明らかに多くなります。 「5倍ラク」は「5倍かんたん」ではない。この点については、記事の後半で、実際に賃貸経営をしている立場から詳しくお話しします。 ポイント8:最後に手に入るのは「5つの自由」 では、これだけの手間をかけて、何が手に入るのか。本書は5つを挙げています。 ...

August 6, 2026

「いくらまで使っていいか」の正解は人によって違う?──『THE WEALTH LADDER 富の階段』をやさしく要約

「まずは家計簿をつけて節約しなさい」 「いや、節約より投資でしょう」 「そんなことより起業して収入を増やすべきだ」 お金のアドバイスは、なぜこんなに食い違うのでしょうか。じつは、どれも間違ってはいません。アドバイスが矛盾して見えるのは、話し手が想定している「資産のレベル」がバラバラだからです。 この本は、その混乱をきれいに整理してくれます。ここでは中学生が読んでもわかるくらいやさしい言葉で、要点をまとめていきます。 著者はニック・マジューリさん。アメリカの資産運用会社リソルツ・ウェルス・マネジメントの最高執行責任者(COO)であり、データサイエンティストでもあります。人気ブログ「OfDollarsAndData.com」の書き手で、前作『JUST KEEP BUYING』は日本でも大ヒットしました。前作が「何にいつ投資するか」という戦術の本だったのに対し、本書は一歩引いて「そもそも今の自分に必要な戦略は何か」を問う戦略の本です。土台になっているのは、50年以上・数万世帯分の金融データ。感覚論ではなく数字から導かれた結論なので、説得力があります。 ポイント1:富は「坂道」ではなく「階段」でできている まず著者が言う「富」とは、純資産のことです。持っている財産(現金・投資・不動産など)から、借金(住宅ローン・奨学金・カードの残債など)を引いた金額。年収ではありません。 そして富は、なだらかな坂道のように少しずつ生活が楽になるものではなく、あるラインを超えた瞬間に景色が変わる「階段」だといいます。本書はこれを6段に分けました(1万ドル=約150万円で換算)。 レベル1:資産150万円未満 ── 生存戦略 レベル2:150万円〜1,500万円未満 ── 教育&スキル戦略 レベル3:1,500万円〜1億5,000万円未満 ── 投資戦略 レベル4:1億5,000万円〜15億円未満 ── 起業戦略 レベル5:15億円〜150億円未満 ── 事業拡大戦略 レベル6:150億円以上 ── 資産防衛戦略 ゲームでいえば、レベル1の装備でラスボスに挑んでも勝てないのと同じです。今の自分の段に合った戦い方がある。それが本書の出発点です。 ポイント2:使っていい金額がわかる「0.01%ルール」 本書でいちばん有名なのが0.01%ルール。資産の0.01%(1万分の1)までなら、毎日使っても資産全体はほとんど揺らがない、という考え方です。 資産150万円の人にとっての150円は、資産1,500万円の人にとっての1,500円と同じ重さ。 これをレベル別に見ると、こうなります。 レベル1 ── 余裕なし(数十円〜149円) レベル2 ── スーパーの自由(150〜1,499円) レベル3 ── レストランの自由(1,500〜1万4,999円) レベル4 ── 旅行の自由(1万5,000円〜) たとえばレベル2の人なら、スーパーで250円の卵と350円の卵で悩む必要はもうありません。その100円は資産の0.001%以下で、人生に影響しないからです。逆に、うなぎ屋で3,000円の並と4,500円の特上を迷うなら話は別。この1,500円が「気にしなくていい額」になるのは、資産1,500万円を超えてからです。 節約すべき場面と、堂々とお金を使っていい場面が、数字で線引きされる。ここが痛快なところです。 ポイント3:「収入」ではなく「資産」を基準に使う 多くの人は年収を基準に生活水準を決めます。年収500万円だから特上を頼んでもいい、という発想です。でも著者は、それが落とし穴だと言います。 収入は気まぐれなもの。明日、失われるかもしれない。 会社の業績、病気、部署の廃止──収入は自分では選べません。土台のしっかりしたほうを基準にすれば、生活は崩れにくくなります。 ただし注意点もあります。0.01%ルールが成り立つのは、生活費を収入でまかなえている場合だけ。資産720万円の人が失業したら、1日720円で暮らすことはできません。「資産で使い方を決め、収入で生活を支える」。この二本立てが前提です。 ポイント4:挑戦するかどうかは「1%ルール」で決める 転職しようか、副業を始めようか、資格を取ろうか。迷ったときの物差しが1%ルールです。 その挑戦が資産を1%以上増やす可能性があるなら、やる価値がある。届かないなら、時間と労力を別のことに使う。 レベル1(資産1%=1.5万円)── 時給の仕事、節約が効く レベル2(同15万円)── スキルを磨いて単価を上げる レベル3(同150万円)── 昇進、副業、投資が効いてくる レベル4(同1,500万円)── 起業や大きな挑戦 面白いのは、同じ行動でも資産レベルによって「割に合うかどうか」が変わるという点です。レベル1の人にとって1日100円の節約(年3万円)は、100万円を年3%で運用するのと同じ威力があります。でもレベル3の人が同じ節約に神経をすり減らすのは、時間の使い方としてもったいない。部活で言えば、基礎練が必要な時期と、試合勘を磨くべき時期が違うようなものです。 ...

August 4, 2026

「安くなってから買おう」は、なぜ損なのか?──世界的ベストセラー『JUST KEEP BUYING』をやさしく解説!

株価が下がるニュースを見ると「もう少し待ってから買おう」と思い、上がると「今さら買うのは高いかな」と思う。そうやって迷っているうちに、結局なにもしないまま1年が過ぎた……。そんな経験はありませんか? 今回紹介する『JUST KEEP BUYING(ジャスト・キープ・バイイング)』は、そのモヤモヤに100年以上のデータで答えを出してくれる一冊です。タイトルを直訳すると「ただ買い続けなさい」。じつにシンプルですが、この6文字の裏には、驚くほど納得できる理由があります。 著者のニック・マジューリさんは、アメリカの資産運用会社リソルツ・ウェルス・マネジメントの最高執行責任者であり、データサイエンティストでもある人物。「なんとなくそう思う」ではなく、「データで調べたらこうだった」と語ってくれるのが本書の最大の魅力です。 この記事では、本書の要点を中学生が読んでもわかるくらいやさしくまとめました。むずかしい専門用語は使いません。それでは、さっそく見ていきましょう。 1. 「貯金」と「投資」、どっちを頑張るべき? お金の本を読むと、「まず節約しろ」と言う本と「早く投資しろ」と言う本があって混乱しますよね。本書の答えは明快で、どちらを頑張るべきかは、あなたの今の状況で変わるというものです。 判断のしかたはシンプル。「1年でいくら貯められるか」と「今持っている資産が1年でどれくらい増えそうか」を比べるだけ。 貯められる額のほうが大きいなら「貯金」に、資産が生む額のほうが大きいなら「投資」に力を入れる。 たとえば貯金が30万円しかない人が、投資のリターンを1%上げようと必死に勉強しても、増えるのは年3,000円。それより残業や副業で月1万円多く稼ぐほうが、はるかに効果的です。逆に資産が3,000万円ある人が100円の節約に神経をすり減らすのは、時間の使い方としてもったいない。同じ努力でも、効く場所は人によって違うのです。 2. 「収入の2割を貯金」に縛られなくていい 「手取りの20%は貯金しましょう」というアドバイスをよく聞きます。でも本書は、この手の万人共通のルールを疑います。理由は単純で、収入も家族構成も家賃も、人によってまったく違うからです。 大切なのは、他人が決めた数字ではなく自分が無理なく貯められる額を知ること。計算式もこれ以上ないほど簡単です。 貯められる額 = 収入 - 支出 部活の練習量と同じで、先輩と同じメニューをこなす必要はありません。自分の体力に合った量を、ケガをせずに続けることのほうが結果につながります。貯金も「ゼロでない限り、まずは合格」。少額でも仕組みにしてしまえば、あとは時間が働いてくれます。 ただし、投資を始める前にひとつだけ用意しておきたいのが生活費3〜6か月分の緊急資金です。この現金がないと、急な出費のときに、いちばん売りたくないタイミングで投資を取り崩すことになります。ゲームで言えば回復アイテムを持たずにボス戦へ行くようなもの。守りを固めてから攻める順番が大切です。 3. 節約でがんばるより、収入を増やすほうが強い 支出を削る努力には、必ず限界があります。家賃も食費もゼロにはできないからです。一方で、収入には上限がありません。だから本書は、節約より収入アップに時間を使うことをすすめます。 そのために有効なのが自分への投資。スキルを身につける、資格を取る、経験を積む。人的資本という「自分という資産」を大きくすれば、そこから生まれるお金は一生ものです。 さらに著者は、稼いだお金の使い道として「収入を生む資産を買う」ことを重視します。株式やインデックスファンドは、持っているだけで企業の稼ぎを分けてくれる存在。給料という「自分が働いて得るお金」と、資産という「お金が働いて得るお金」。この2つのエンジンを回すのが、資産形成の王道だというわけです。 4. 昇給したら、生活レベルはどこまで上げていい? 給料が上がったとき、生活をまったく変えないのはつらいものです。かといって全部使えば、お金は永遠に貯まりません。そこで本書が提案するのが、「昇給額の50%ルール」。 増えた収入の半分は使っていい。残りの半分は貯金・投資に回す。 月給が2万円増えたら、1万円は好きに使い、1万円は積立に上乗せする。これなら「頑張ったご褒美」も感じられて、貯蓄率も自然に上がります。ガマンだけの計画は、ダイエットと同じでいつか反動が来ます。続けられるルールこそが最強なのです。 5. 罪悪感なくお金を使う「2倍ルール」 お金の勉強をすると、逆に使うことが怖くなる人がいます。3,000円の服を買うだけで「投資に回すべきでは」と悩んでしまう。これは楽しくありません。 そこで登場するのが2倍ルール。ぜいたくをしたくなったら、同じ金額を投資に回すと決めるのです。1万円の食事に行くなら、1万円を積立に入れる。そこまでして欲しいかを考える判断基準にもなりますし、実行すれば「未来の自分にも同額を渡した」ことになるので、堂々と楽しめます。 お金は使うためにあります。貯めることが目的になってしまうと、何のための資産形成かわからなくなってしまいます。 6. 「安くなるまで待つ」は、神様でも勝てない ここが本書のいちばん有名なパートです。著者は膨大なデータで、2つの方法を比べました。 ひとつは毎月コツコツ買い続ける方法(ドルコスト平均法)。もうひとつは、現金をためておいて暴落したときにまとめて買う方法。しかも後者は「いつが底値かを完璧に言い当てられる」という、神様レベルの反則的な条件をつけての比較です。 結果はどうだったか。多くの期間で、コツコツ買い続けたほうが勝ちました。理由は、待っている間に市場が上がってしまうから。底を待つ人は、上昇分をまるごと取り逃がすのです。 未来を完璧に予測できる神でさえ、待っていては買い続ける人に勝てない。 未来が読めない私たちが、タイミングを当てられるはずがありません。だから答えは、とにかく買い続ける。これがタイトルの意味です。 同じ理由で、まとまったお金が手に入ったときも「様子を見ながら」より早く市場に入れたほうが有利になりやすいとデータは示しています。大事なのは、買わない期間をつくらないことです。 7. 暴落は「入場料」。こわい時こそ買い続ける とはいえ、買い続けるのは口で言うほど簡単ではありません。相場が3割下がり、SNSに悲観的な言葉があふれる時期は必ずやってきます。 本書はその下落を、「リターンを得るために払う入場料」だと表現します。遊園地に入るのにチケット代がいるように、株式の高いリターンには「値動きに耐える」という代金がついている。無料で乗れるアトラクションはないのです。 だからこそおすすめされるのが、自動積立という仕組み。毎月決まった日に自動で買い付ける設定にしておけば、こわくても、忙しくても、機械が淡々と実行してくれます。意志の力に頼らないことが、感情に負けないための最善策です。 そして買う対象は、当てにいく個別株より世界中に分散されたインデックスファンド。プロでも市場平均に勝ち続けるのは至難の業だと、データがはっきり示しています。 8. いちばん大切な資産は、増やせない「時間」 最後に本書が語るのは、お金の話ではありません。時間の話です。 お金は減っても取り戻せます。しかし時間だけは、どんな大富豪でも買い戻せません。だから著者は、お金は時間を取り戻すために使えと言います。時短家電を買う、通勤の短い家に住む、人に頼む。それは浪費ではなく、人生でいちばん貴重な資産への投資です。 資産を増やす目的は、数字を大きくすることではなく、自分の時間を自由にすること。 では、その自由はいくらあれば手に入るのか。本書が紹介するのが有名な「4%ルール」です。資産の4%を毎年取り崩す前提なら、必要な金額は1年の生活費の25倍。年間300万円で暮らすなら7,500万円が目安、という具合に、ぼんやりした不安が「数字」に変わります。 なお「いつ売るのか」についても本書は答えを示しています。売っていいのは、資産の偏りを直すとき、一つの銘柄に集中しすぎているとき、そして人生の目的のためにお金を使うとき。値動きが不安だから売る、は理由になりません。 そして本書は、資産が増えても幸福感がすぐには追いつかない理由にも触れています。だからこそ、遠い将来の目標だけを見つめて今を犠牲にしないこと。今日を楽しみながら、淡々と買い続ける。これが著者の伝えたい姿だと感じました。 私にとっての『JUST KEEP BUYING』 最後に、少しだけ個人的な話をさせてください。 ...

August 4, 2026

厚底シューズ歴7年の私が「ワラーチ」で走ったら、ニヤけが止まらなくなった話

はじめに ― 職場の同僚に「変な履物」を勧められた きっかけは、職場のランニング仲間からの一言でした。 「これ、走れるサンダルなんですよ」 彼はすでにワラーチのユーザーで、実物を持ってきて見せてくれました。薄いゴム板にヒモを通しただけの、いわばゴムのわらじ。正直、最初の感想は「……これで走るんですか?」でした。 そのうえで、こんな提案をもらいます。 「私、もう一足欲しいと思っていまして。自作キットが2足分で3,000円で買えるんですが、割り勘で購入して1足ずつ使いませんか?」 実物を目の前にして説明を聞いているうちに、めっちゃ興味がわいてしまいました。ひとり1,500円。失敗しても痛くない金額です。二つ返事で了承し、購入をお願いしました。 半信半疑のまま自作キットが手元に来て、実際に作って走ってみたわけですが――結論から言うと、しばらく忘れていた「走ることそのものの楽しさ」を思い出しました。 近年の私はすっかり厚底シューズに慣れきっていて、脚を「守られている」状態が当たり前になっていました。そこへワラーチです。一歩ごとに、足裏からズンズンと地面の情報が体に響いてくる。この感覚がとにかく心地よくて、走りながら口元がゆるんでしまう。はたから見れば完全に「ニヤけた変な人」です(笑)。 この記事では、そんなワラーチについて、 そもそもワラーチとは何なのか(発祥地・歴史) 履いて走ることで期待できるメリット 一方で、必ず知っておくべきデメリット・注意点 自作キットの実際 を、初心者なりの実体験を交えてまとめます。 はじめにお断り この記事は、ワラーチ歴わずか2回・計10kmの人間が書いたファーストインプレッションです。ベテランの方から見れば「そこはまだ何もわかってない」という部分だらけだと思います。だからこそ、始めたばかりの人間が何を感じ、何をやらかしたかを、できるだけ正直に残しておきたくて書いています。 親指と人差し指の間を通したヒモが甲でクロスし、足首まわりをぐるりと囲む。靴に慣れた目で見ると、あまりに情報量が少なくて逆に驚きます。 ワラーチとは ― 「走る民族」の履物 ワラーチ(huarache/ワラチェ、ハラッチとも表記)は、メキシコ北西部の先住民族・ララムリ(別名タラウマラ族) が古くから履いてきたサンダルを原型とする履物です。 構造は驚くほどシンプルで、 ソール:足型に切り出した1枚のゴム板(伝統的には廃タイヤ) ストラップ:ソールに開けた穴に通した革ヒモ(現代では主にパラコード) これだけ。クッションもアーチサポートもヒールカウンターもありません。「足裏を石やトゲから守る最低限の板」に、脱げないためのヒモが付いているだけの道具です。 ララムリはメキシコ・チワワ州の峡谷地帯(バランカ・デル・コブレ/通称「銅峡谷」)に暮らし、このサンダルで起伏の激しい山道を100km単位で走ることから「走る民族」と呼ばれてきました。 語源には諸説あり ― 「わらじ」説は本当か? 「huarache」という語は、メキシコ先住民の言語プレペチャ語で「サンダル」を意味する語(kwarachi など)に由来する、というのが一般的な説明です。 一方、日本では 「語源は日本語の"わらじ"だ」という説 がネット上でよく紹介されています。江戸時代に太平洋を渡った日本人が伝えた、という話ですが、これは学術的に裏づけられたものではなく、音の似た偶然から生まれた俗説と考えるのが妥当でしょう。 ただ、形も発想も本当によく似ているのは事実です。薄い板を足裏に当て、ヒモで結ぶ。地球の反対側で同じ答えにたどり着いたと考えると、それはそれでロマンがあります。 後で出てくるゴムシートの写真を眺めていると、素材こそ違え、発想は本当にわらじそのものだなと思えてきます。 ワラーチが世界に広まった理由 ― 『BORN TO RUN』 ワラーチが一部のマニアの道具から世界的なムーブメントになった決定打が、2009年に刊行されたクリストファー・マクドゥーガルのノンフィクション 『BORN TO RUN 走るために生まれた』 です。 「なぜ高機能シューズが進化し続けているのに、ランナーの故障は減らないのか?」という問いを軸に、ララムリの走りと文化を追ったこの本は世界的なベストセラーとなり、ベアフット(裸足)ランニング/ミニマルシューズの一大ブームを巻き起こしました。 この流れの中で、 ビブラム ファイブフィンガーズに代表されるミニマルシューズの登場 自作ワラーチのDIY文化の広がり ワラーチ限定のリレーマラソンなど、国内イベントの開催 といった動きが生まれ、日本にも定着していきます。 面白いのは、その後ランニング界が 真逆の方向=厚底カーボン へ大きく振れたこと。今、私たちは「極厚」と「極薄」という両極端の選択肢を、両方手にしているわけです。(そして私は、まんまと両方履いています) 厚底 vs ワラーチ ― 同じVibramなのに、真逆 私の普段の相棒は HOKA SPEEDGOAT 6。当たり前ですが、両者はまったくの別物でした。 ...

August 3, 2026

なぜ、同じ収入でも「貯まる人」と「貯まらない人」がいるの?──100年読み継がれる名著『バビロンの大富豪』を中学生にもわかるように解説!

毎月まじめに働いているのに、なぜかお金が残らない。かたや、同じくらいの収入なのに、しっかりお金を増やしていく人もいる――。この違いは、いったいどこから生まれるのでしょうか? じつはその答えは、いまから約100年前、いえ、物語の舞台までさかのぼれば数千年前から、まったく変わっていません。 今回紹介するのは、世界中で読み継がれるお金の古典『バビロンの大富豪』(原題 The Richest Man in Babylon)。著者は、アメリカの実業家ジョージ・S・クレイソンさんです。1926年に発表されたこの本は、古代都市バビロンを舞台にした「物語」のかたちで、お金を貯め・守り・増やすための原理原則を教えてくれます。 物語には、いくら働いてもお金がたまらないと嘆く馬車職人や竪琴弾きが登場します。彼らが大富豪アルカドのもとをたずね、富の秘密を教わっていく――そんな親しみやすいストーリー仕立てなので、お金の本が苦手な人でもすっと入っていけます。 むずかしい専門用語はほとんど出てきません。中学生が読んでもわかるくらいやさしいのに、大人が一生使えるお金の知恵がぎっしりつまっている――それが、この本が100年も愛され続ける理由です。今日はその中身を、8つのポイントにしぼってやさしく解説していきます! ① まずは「収入の10分の1」を自分のために取っておく バビロン一のお金持ち・アルカドが、いちばん最初に教えたルールはこれです。 稼いだお金のうち、少なくとも10分の1は、自分のために取っておきなさい。 給料が入ったら、10枚のうち9枚で暮らし、残りの1枚は「なかったもの」として貯金にまわす。たったこれだけです。 ポイントは、余ったら貯めるのではなく、先に貯めること。ゲームでいえば、冒険に出る前にまずセーブしておくようなものです。残ったお金で生活する――この順番にするだけで、財布は少しずつ、でも確実に太っていきます。 「たった10分の1で何が変わるの?」と思うかもしれません。でもアルカドは言います。少しずつでも貯め始めた人の財布には、不思議とお金が流れ込んでくるようになる、と。 おもしろいのは、10分の1を抜いても暮らし向きはほとんど変わらないという点です。人は手元にあるお金を、あればあるだけ使ってしまうもの。だからこそ、最初にひとつまみ取り分けておくだけで、生活の質を落とさずに、着実に資産の芽を育てられるのです。 ② 「必要な出費」と「ただ欲しいだけの出費」を分ける 貯金を始めると、多くの人がこう思います。「10分の1を抜いたら、生活が苦しくなるのでは?」 でも本書はきっぱり言います。欲しいものと、必要なものは、まったくの別物だと。 人の欲望には限りがありません。収入が増えれば、欲しいものも同じだけ増えていく。だから、いくら稼いでも「使いたい欲」に追いつかれてしまうのです。 そこで大事になるのが「予算を立てる」こと。使ってもいい金額をあらかじめ決めておけば、気まぐれな衝動買いにブレーキがかかります。使っていないサブスクや、なんとなく続けている固定費を見直すだけでも、意外と削れるお金は見つかるものです。 ③ 貯めたお金を「働かせる」――お金にもうひとり働いてもらう お金をただ金庫に眠らせておくのは、じつはもったいないこと。本書は、貯めたお金をさらにお金を生む「種」として使いなさいと教えます。 貯めた黄金を働かせれば、それがまた新しい黄金を連れてくる。 これは、畑にまいた1粒の種が、やがて何十粒もの実をつけるのと同じ。お金がお金を呼び、その増えたお金がまた次のお金を呼ぶ。雪だるまが転がるほど大きくなるように、時間を味方につければ、資産はふくらんでいきます。 大事なのは、少額でもいいから「働く場所」にお金を置いてみること。早く始めた人ほど、この雪だるまを大きく育てられます。 本書がすごいのは、この「お金に働いてもらう」という発想を、数千年前の物語の中ですでに語っていること。自分の体は一日24時間しか働けませんが、お金には休みも眠りもありません。あなたが寝ている間も、遊んでいる間も、こつこつと働き続けてくれる――そんなもうひとりの働き手を持てるかどうかが、大きな分かれ道になります。 ④ 大切なお金を「守る」――わからないものには手を出さない お金は、増やすことよりも失わないことのほうがずっと大切です。100かけて増やしても、1回の大失敗でゼロになっては意味がありません。 本書には「黄金の五つの法則」という教えがあり、その中でくり返し警告されるのがこれです。 黄金は、自分がよく知らないものに投資する人から、逃げていく。 SNSやネットで見かける「絶対もうかる」「今だけ」という甘い話ほど、あやしいもの。よく知らないゲームにいきなり大金を課金しないのと同じで、中身が理解できないものには近づかない。これが、お金を守るいちばんの盾になります。 本書には、大金を持ちながらだまされて全財産を失ってしまう人の話も出てきます。共通しているのは、「早く増やしたい」というあせりにつけこまれた点です。判断に迷ったら、その道にくわしい信頼できる人の意見を聞くこと。そして、うますぎる話は「何かおかしい」と一歩引いて考えること。守りを固めてこそ、増やす攻めが生きてきます。 ⑤ 自分の「稼ぐ力」こそ、最大の資本 お金を貯めて、増やして、守る。それも大事ですが、本書はもうひとつ、意外な資産に目を向けさせます。それは――あなた自身です。 稼ぐ力を高めることは、いちばん確実な投資である。 同じ仕事でも、スキルや知識が上がれば、もらえる報酬も上がっていきます。これは、ゲームでレベルを上げると強い装備が手に入るのと似ています。本を読む、勉強する、経験を積む。こうした自己投資は、一度身につけば一生あなたから離れません。 学校でも会社でも、学び続ける人のところに、お金を稼ぐチャンスは集まってくるのです。 しかも、この「稼ぐ力」は不景気にも強いのが特長です。株や不動産の値段は下がることがありますが、あなたが身につけた知識やスキルは、値下がりしません。自分という資本を育てることは、どんな時代でも裏切らない、いちばん確実な投資なのです。 ⑥ 「未来の自分」に、いまから仕送りをしておく 若いうちや元気なうちは、なかなか実感がわかないもの。でも本書は、将来の自分と家族のために、いまから準備しておくことの大切さを説きます。 たとえば、家賃を払い続けるかわりに自分の住まいを持つこと。あるいは、年をとって働けなくなったときのために、少しずつ備えを積み上げておくこと。 これは、遠くにいる「未来の自分」へ、毎月少しずつ仕送りをしておくようなイメージです。いまの自分がほんの少しがまんするだけで、未来の自分がずっと楽になる。金額の大きさよりも「続けること」が大切で、その積み重ねが、安心できる暮らしの土台になります。備えがある人は、心にも余裕が生まれます。 ⑦ 借金は「返せる計画」でコツコツ片づける 本書には、借金まみれだったラクダ商人・ダバシールが、見事に立ち直る物語が出てきます。そのカギになったのが、シンプルなお金の配分ルールでした。 収入の10分の7で暮らし、10分の2で借金を返し、10分の1を自分のために貯める。 ポイントは、借金を返しながらも貯金をやめなかったこと。返済だけに追われると心が折れてしまいますが、少しでも自分のお金が増えていくと、前を向いて続けられます。 借金は、あわてて一気に返そうとしなくて大丈夫。返せる計画を立てて、一歩ずつ。地味ですが、これがいちばん確実な脱出法です。 ⑧ 「幸運」は、行動して備えた人のところにやってくる 最後に、この本がくり返し伝える大切なメッセージです。 幸運の女神は、行動する人に微笑む。 ...

August 2, 2026

お金持ちになるのに「がまん」だけじゃダメ?──200万部突破『お金の大学』を、いちばんやさしく解説!

「お金持ちになりたい!」——そう思ったとき、あなたならどうしますか? 「とにかく節約して、コツコツ貯金する」と答えた人は、じつは半分正解で半分まちがいです。ただ貯めるだけでは、お金持ちにはなれません。 今回紹介するのは、令和で一番売れているお金の本『本当の自由を手に入れる お金の大学』(改訂版)。著者は、YouTubeの人気チャンネル「リベ大」でおなじみの両@リベ大学長さんです。学長さんは高校生のときに起業し、10代で1年に1億円以上を稼いだこともある、お金のプロ中のプロ。 そんな学長さんが「これだけは知っておいてほしい」とまとめたのが、一生お金に困らないための「5つの力」です。この記事では、中学生が読んでもわかるくらいやさしく、それでいて、これから資産形成を始める大人の方にしっかり役立つように、8つのポイントで解説していきます! ① そもそものゴールは「経済的自由」 この本がめざすゴールは、ただの「お金持ち」ではありません。経済的自由という状態です。 経済的自由とは、かんたんに言うと「働かなくても、入ってくるお金だけで生活できる状態」のこと。 生活に必要なお金 < 自動で入ってくるお金 この式が成り立てば、「お金のために、いやな仕事をむりやり続ける」必要がなくなります。好きなことを選べる、自由な人生に近づけるんです。 「自動で入ってくるお金」って何?と思いますよね。たとえば、持っている株からもらえる配当(その会社が「ありがとう」とくれるお金)や、貸したお金の利子などがそうです。最初はほんの少しでOK。この“自分で働かなくても入ってくるお金”を、コツコツ育てていくのがゴールなんです。 そして、そのゴールにたどり着くための地図が、次に紹介する「5つの力」です。 ② 【貯める力】一番効くのは「固定費」を見直すこと 節約というと、「お菓子をがまんする」「安いものを選ぶ」を思いうかべますよね。でも学長さんは、そこより先に見直すべきものがあると言います。それが固定費です。 固定費とは、毎月ほぼ自動で出ていくお金のこと。スマホ代、保険、家賃などがそうです。ゲームの「月額課金」を、使っていないのにずっと払い続けているイメージです。 たとえばスマホを大手から格安SIMに変えると、月5,000円が1,500円になったりします。これだけで1年に約4万円の節約。毎日ジュースをがまんするより、ずっとラクで効果も大きいんです。 もう一つ見直したいのが保険です。日本には「社会保険」という国のしくみがしっかりあるので、じつは民間の医療保険やがん保険は、多くの人にとって入りすぎだと学長さんは言います。「なんとなく安心だから」で入っている保険を見直すだけで、年に何万円も浮くことがあるんです。 一度見直せば、あとは自動でずっとおトク。これが固定費のすごさ。 ③ 【増やす力】お金にも“アルバイト”してもらう 貯めたお金を、ただ貯金箱に入れておくのはもったいない。学長さんは「お金にも働いてもらおう」と言います。それが投資です。 投資と聞くと「ギャンブルでしょ?」とこわく感じるかもしれません。でも学長さんがすすめるのは、世界中の会社にまとめて少しずつ投資する「インデックス投資」という方法。1社だけに賭けるのではなく、クラス全員の平均点を買うようなイメージなので、リスクが低いんです。 そして投資の最強の味方が複利。増えたお金がさらにお金を生み、雪だるまのようにふくらんでいきます。最初は小さくても、時間をかけるほどスピードがどんどん速くなるのが複利のすごさです。 しかも今は「新NISA」という、投資で増えたお金に税金がかからないおトクな制度もあります。ふつうは増えた分の約2割を税金として取られるので、これはかなり大きい。国が「投資してね」と用意してくれた、使わないと損なしくみなんです。 投資で最大の味方になるのは「時間」です。だからこそ、思い立った“今日”が、いつでも一番早いスタートになります。 ④ 【稼ぐ力】収入の入り口を増やす 貯める・増やすと同じくらい大事なのが、そもそもの収入を増やす「稼ぐ力」です。 多くの大人は、収入が「会社の給料」ひとつだけ。でもそれって、イスの脚が1本しかないようなもの。その脚が折れたら(会社をやめることになったら)、一気にたおれてしまいます。 だから学長さんは、給料に加えて「副業」で収入の柱を増やそうと言います。ブログ、動画編集、ハンドメイド作品を売る……好きなことや得意なことがお金になる時代です。 脚が2本、3本とあれば、1本折れても大丈夫。収入の入り口が多いほど、人生は安定するんです。 もう一つ大切なのが、お金の“生み出し方”です。給料は「だれかに雇われてもらうお金」。いっぽう副業の多くは「自分でお金を生み出す力」です。この「自分で生み出す力」は身につけるのが少し大変ですが、一度手に入れれば一生モノの武器になります。 ⑤ 【使う力】お金は「幸せ」に変えてこそ意味がある 「え、使う“力”?貯めるのが大事じゃないの?」と思いますよね。じつはここが、この本のいちばん深いところ。 お金は、ただ持っているだけでは1円も幸せを生みません。使って初めて、思い出や経験、人とのつながりに変わります。 ガチャに全部つっこんで一瞬で終わるより、友だちとの旅行や、ずっと役立つ本にお金を使ったほうが、心に残りますよね。 学長さんがすすめる「いい使い方」の代表が、経験・人・寄付です。旅行やチャレンジといった経験は、あとから「思い出」という財産になります。人へのプレゼントや寄付は、まわりを笑顔にして、それがめぐりめぐって自分にも返ってくる。お金は「ひとりじめ」するより「上手に回す」ほうが、大きな幸せを生むんです。 大切なのは「何を買うか」より「それで自分が本当に幸せになれるか」。 お金は目的ではなく、幸せになるための道具。この考え方を持てるかどうかで、人生は大きく変わります。 ⑥ 【守る力】せっかくのお金を減らさない 最後の力は、貯めて増やしたお金を「守る」力です。じつは、お金を失う落とし穴はあちこちにあります。 詐欺(さぎ):「絶対もうかる」という話は、ほぼウソ ムダづかい:見栄(みえ)を張るための買い物 インフレ:物の値段が上がって、お金の価値が下がること とくに気づきにくいのがインフレです。たとえば今100円のジュースが、10年後に150円になっていたら、同じ100円玉ではもうジュースが買えません。お金を貯金箱に入れっぱなしにするだけだと、金額は同じでも「買える量」がこっそりへっていくんです。だからこそ、③の「増やす力」が、じつは守る力にもつながっています。 RPGで苦労して手に入れたレア装備を、油断してぬすまれたらショックですよね。お金も同じで、貯めるのと同じくらい「減らさない」ことが大事なんです。「うまい話には裏がある」と覚えておくだけで、多くのピンチを防げます。 ⑦ 「知らない」が、いちばん損をする ここまで読んで「こんなに大事なこと、学校でも会社でもちゃんと教わらなかったな」と思いませんでしたか? そうなんです。お金の知識は、とても大切なのに学校ではほとんど教えてくれません。だから、知っている人と知らない人で、大人になってから大きな差がついてしまう。 お金の不安の正体は、「知らないこと」が多いからかもしれません。 逆に言えば、知識さえあれば不安は消せるということ。何をどうすればいいか、道すじが見えるからです。この本が200万部も売れたのは、その「見えない不安」を消してくれるからなんですね。 ⑧ 完璧じゃなくていい。まず一歩から 5つの力(貯める・増やす・稼ぐ・使う・守る)を、いきなり全部マスターする必要はありません。学長さんも「バランスよく、少しずつ育てよう」と言っています。 大事なのは、テストの一夜づけのようにあわてることではなく、毎日コツコツ続けること。1つずつでも身につければ、平均的な人でも必ず今より自由な生活に近づけます。 そして、資産形成に「もう遅い」はありません。あなたが動き出す“今日”が、これからの人生でいちばん若い日です。1日でも早く始めた分だけ、時間を味方につけられます。 じつは、この本は私自身の人生も変えました 最後に、少しだけ私の話をさせてください。 私がこの本に出会ったのは、2021年。妻から初版を手渡されたのがきっかけでした。それまでの私は、お金について「なんとなく不安だけど、何をどうすればいいのか分からない」という状態。でもこの一冊を読んで、資産形成の“進むべき方向”と、今すぐやるべき“具体的な行動”が、はっきりと見えたんです。 ...

July 29, 2026