「まずは家計簿をつけて節約しなさい」 「いや、節約より投資でしょう」 「そんなことより起業して収入を増やすべきだ」

お金のアドバイスは、なぜこんなに食い違うのでしょうか。じつは、どれも間違ってはいません。アドバイスが矛盾して見えるのは、話し手が想定している「資産のレベル」がバラバラだからです。

この本は、その混乱をきれいに整理してくれます。ここでは中学生が読んでもわかるくらいやさしい言葉で、要点をまとめていきます。

『THE WEALTH LADDER 富の階段 ── 資産レベルが上がり続けるシンプルな戦略』(ニック・マジューリ著/児島修 訳/ダイヤモンド社)

著者はニック・マジューリさん。アメリカの資産運用会社リソルツ・ウェルス・マネジメントの最高執行責任者(COO)であり、データサイエンティストでもあります。人気ブログ「OfDollarsAndData.com」の書き手で、前作『JUST KEEP BUYING』は日本でも大ヒットしました。前作が「何にいつ投資するか」という戦術の本だったのに対し、本書は一歩引いて「そもそも今の自分に必要な戦略は何か」を問う戦略の本です。土台になっているのは、50年以上・数万世帯分の金融データ。感覚論ではなく数字から導かれた結論なので、説得力があります。

ポイント1:富は「坂道」ではなく「階段」でできている

まず著者が言う「富」とは、純資産のことです。持っている財産(現金・投資・不動産など)から、借金(住宅ローン・奨学金・カードの残債など)を引いた金額。年収ではありません。

そして富は、なだらかな坂道のように少しずつ生活が楽になるものではなく、あるラインを超えた瞬間に景色が変わる「階段」だといいます。本書はこれを6段に分けました(1万ドル=約150万円で換算)。

本書が示す「富の6段階」。今いる段によって、やるべき戦略が変わる。

  • レベル1:資産150万円未満 ── 生存戦略
  • レベル2:150万円〜1,500万円未満 ── 教育&スキル戦略
  • レベル3:1,500万円〜1億5,000万円未満 ── 投資戦略
  • レベル4:1億5,000万円〜15億円未満 ── 起業戦略
  • レベル5:15億円〜150億円未満 ── 事業拡大戦略
  • レベル6:150億円以上 ── 資産防衛戦略

ゲームでいえば、レベル1の装備でラスボスに挑んでも勝てないのと同じです。今の自分の段に合った戦い方がある。それが本書の出発点です。

ポイント2:使っていい金額がわかる「0.01%ルール」

本書でいちばん有名なのが0.01%ルール。資産の0.01%(1万分の1)までなら、毎日使っても資産全体はほとんど揺らがない、という考え方です。

資産150万円の人にとっての150円は、資産1,500万円の人にとっての1,500円と同じ重さ。

これをレベル別に見ると、こうなります。

  • レベル1 ── 余裕なし(数十円〜149円)
  • レベル2 ── スーパーの自由(150〜1,499円)
  • レベル3 ── レストランの自由(1,500〜1万4,999円)
  • レベル4 ── 旅行の自由(1万5,000円〜)

たとえばレベル2の人なら、スーパーで250円の卵と350円の卵で悩む必要はもうありません。その100円は資産の0.001%以下で、人生に影響しないからです。逆に、うなぎ屋で3,000円の並と4,500円の特上を迷うなら話は別。この1,500円が「気にしなくていい額」になるのは、資産1,500万円を超えてからです。

節約すべき場面と、堂々とお金を使っていい場面が、数字で線引きされる。ここが痛快なところです。

ポイント3:「収入」ではなく「資産」を基準に使う

多くの人は年収を基準に生活水準を決めます。年収500万円だから特上を頼んでもいい、という発想です。でも著者は、それが落とし穴だと言います。

収入は気まぐれなもの。明日、失われるかもしれない。

会社の業績、病気、部署の廃止──収入は自分では選べません。土台のしっかりしたほうを基準にすれば、生活は崩れにくくなります。

ただし注意点もあります。0.01%ルールが成り立つのは、生活費を収入でまかなえている場合だけ。資産720万円の人が失業したら、1日720円で暮らすことはできません。「資産で使い方を決め、収入で生活を支える」。この二本立てが前提です。

ポイント4:挑戦するかどうかは「1%ルール」で決める

転職しようか、副業を始めようか、資格を取ろうか。迷ったときの物差しが1%ルールです。

その挑戦が資産を1%以上増やす可能性があるなら、やる価値がある。届かないなら、時間と労力を別のことに使う。

  • レベル1(資産1%=1.5万円)── 時給の仕事、節約が効く
  • レベル2(同15万円)── スキルを磨いて単価を上げる
  • レベル3(同150万円)── 昇進、副業、投資が効いてくる
  • レベル4(同1,500万円)── 起業や大きな挑戦

面白いのは、同じ行動でも資産レベルによって「割に合うかどうか」が変わるという点です。レベル1の人にとって1日100円の節約(年3万円)は、100万円を年3%で運用するのと同じ威力があります。でもレベル3の人が同じ節約に神経をすり減らすのは、時間の使い方としてもったいない。部活で言えば、基礎練が必要な時期と、試合勘を磨くべき時期が違うようなものです。

ポイント5:レベル1で最優先なのは「罠から抜けること」

レベル1でやるべきことは、投資でも起業でもありません。生き延びることです。

まずは、この瓶にお金が残る状態をつくること。レベル1の戦いは、そこから始まる。

データが示すのは、経済的な苦境の多くがごく一部の世帯で繰り返し起きているという事実。一度借金と延滞のループに入ると、抜け出すのが極端に難しくなるからです。だからこの段階では、高金利の借金を避ける・生活防衛資金をつくる・困ったときに頼れる人間関係を持つ、という守りが最優先になります。

そして著者は釘を刺します。レベル1の本当の問題は「支出」ではなく「収入」だと。すでに切りつめている人に「もっと節約を」は届きません。時給を上げる、働く時間を確保する、支援制度を使う。収入側を動かすほうが現実的です。

ポイント6:レベル2は「学び直し」のスイートスポット

日本の世帯の半分以上が入るとされるのが、資産150万〜1,500万円のレベル2。ここでの武器は教育とスキルです。

なぜこの段が最適なのか。レベル1では学ぶための時間もお金も足りず、レベル4以上になると仕事を休んでまで学び直す金銭的メリットが薄い。学ぶ余力があり、かつ学んだ分がしっかり収入に返ってくるのがレベル2だから、というわけです。

仕事選びの基準も明快です。

①得意なこと ②興味があること ③人がお金を出してくれること

このうち最低2つを満たす仕事を選ぶ。そして迷ったら、まずは③を優先するのが現実的だと著者は言います。生活を成り立たせてから、①と②に寄せていけばいい。「好きを仕事に」を美談で終わらせない、データの人らしい冷静さです。

ポイント7:投資は「早く・大きく」始めるほど効く

レベル3の主役は投資です。ここで示される計算が強烈です。

毎年120万円を年利7%で40年間投資すると、元本4,800万円に対して、資産は約2億4,000万円になります。増えた約2億円は運用益。しかも内訳を見ると、最初の10年に投じた1,200万円が、最終資産のおよそ半分をつくっているのです。

1年目の120万円は40年で約15倍に育つのに、40年目に入れた120万円は120万円のまま。同じ金額でも、投資したタイミングによって働く時間がまったく違うからです。著者はこれを「大きく始めて、後でストップ」と表現します。

時間を味方につけた人が勝つ。早く始めた1円ほど、長く働いてくれる。

投資は才能ではなく、時間を味方につけた人が勝つゲーム。だからこそ、無理なく始められるようになった時点で、できるだけ早く動き出すことが効いてきます。

ポイント8:お金は「塩」であって、料理そのものではない

第3部で本書は、お金そのものから離れていきます。

お金は塩に似ている。少し加えるだけで素材の味は劇的に良くなるが、入れすぎれば料理を台無しにする。

そして何より、塩だけでは料理にならない。引き立てるべき素材がなければ意味がないのです。

著者は富を5つに分けます。経済的な富・社会的な富・精神的な富・身体的な富・時間的な富。中でも最も重要なのが、良好な人間関係に支えられた社会的な富だと言います。おいしい食事も、一緒に食べる相手がいなければどこか味気ない。分かち合う人がいない資産に、どれほどの意味があるでしょうか。

経済的な富は、他の富との掛け算です。健康や人間関係がゼロなら、お金をいくら掛けても答えはゼロのまま。だから著者は、理不尽な上司から離れるための転職のように、悪い人間関係を人生から取り除くことにも大きな価値があると言います。

読んで改めて実感したこと

この本を読んで私がいちばん腑に落ちたのは、「収入」ではなく「資産」を基準に考えることの大切さでした。

収入は、会社の業績や景気、そして自分の体調によって、あっけなく変わります。どれだけ真面目に働いていても、自分の力だけでは守りきれません。一方で資産は、日々の節約や投資を積み重ねて、自分自身が築き上げてきた確かな土台です。

だからこそ、生活水準を一時的な収入ではなく、積み上げてきた資産を基準に決めるほうが、長期的に安定した人生につながる。そう学びました。

これは、インデックス投資を続けている私にとっても大きな気づきでした。日々の値動きや、その月の収入の増減に一喜一憂するのではなく、資産を着実に育てることを最優先に考える。その姿勢こそが、将来の安心につながるのだと改めて認識させてくれた一冊です。

今日からできる3つのこと

  1. 自分の純資産を計算して、今いる段を確かめる(財産から借金を引くだけ。まずは現在地を知る)
  2. 資産の0.01%を出して、それを「気にしない額」の基準にする(迷う買い物が一気に減ります)
  3. 今の段に合った一手を1つだけ決める(レベル1なら借金を減らす、レベル2ならスキルを1つ磨く、レベル3なら積立額を増やす)

この本のいちばんの価値は、「他人のアドバイスが自分に効かない理由」がはっきりわかることだと思います。焦りや自己嫌悪の多くは、自分と違う段にいる人の基準を当てはめてしまうことから生まれます。

自分の段を知り、その段の戦い方をする。そして最後は、お金以外の富にも目を向ける。気になった方は、ぜひ本書を手に取ってみてください。


「節約すべきか、投資すべきか、挑戦すべきか」——お金の悩みの多くは、自分がいまどの段にいるのかを知らないまま考えているせいかもしれません。この本は、その現在地を数字で教えてくれます。前作『JUST KEEP BUYING』を読んだ方はもちろん、まだの方でもこちらから読んで問題ありません。

THE WEALTH LADDER 富の階段 ── 資産レベルが上がり続けるシンプルな戦略
ニック・マジューリ/児島修 訳/ダイヤモンド社。『JUST KEEP BUYING』著者の最新作。50年以上・数万世帯の金融データから導いた「資産レベルごとの正しい戦略」
Amazonで見る ›

こちらが前作。「何を、いつ買うか」という戦術を、100年以上のデータで示した一冊です。本書とあわせて読むと、「どの段で・何を・いつ」がひと通りそろいます。

JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則
ニック・マジューリ/児島修 訳/ダイヤモンド社。日本で20万部突破。底値を待つより買い続けることの強さを、100年超のデータで証明した前作
Amazonで見る ›

あわせて読みたい:同じ著者の前作と、お金の原理原則を学べる一冊のご紹介はこちら▼ 「安くなってから買おう」は、なぜ損なのか?──世界的ベストセラー『JUST KEEP BUYING』をやさしく解説! なぜ、同じ収入でも「貯まる人」と「貯まらない人」がいるの?──100年読み継がれる名著『バビロンの大富豪』