毎月まじめに働いているのに、なぜかお金が残らない。かたや、同じくらいの収入なのに、しっかりお金を増やしていく人もいる――。この違いは、いったいどこから生まれるのでしょうか?

じつはその答えは、いまから約100年前、いえ、物語の舞台までさかのぼれば数千年前から、まったく変わっていません。

『文庫版 バビロンの大富豪』(ジョージ・S・クレイソン著/大島豊訳/グスコー出版)

今回紹介するのは、世界中で読み継がれるお金の古典『バビロンの大富豪』(原題 The Richest Man in Babylon)。著者は、アメリカの実業家ジョージ・S・クレイソンさんです。1926年に発表されたこの本は、古代都市バビロンを舞台にした「物語」のかたちで、お金を貯め・守り・増やすための原理原則を教えてくれます。

物語には、いくら働いてもお金がたまらないと嘆く馬車職人や竪琴弾きが登場します。彼らが大富豪アルカドのもとをたずね、富の秘密を教わっていく――そんな親しみやすいストーリー仕立てなので、お金の本が苦手な人でもすっと入っていけます。

むずかしい専門用語はほとんど出てきません。中学生が読んでもわかるくらいやさしいのに、大人が一生使えるお金の知恵がぎっしりつまっている――それが、この本が100年も愛され続ける理由です。今日はその中身を、8つのポイントにしぼってやさしく解説していきます!

古代都市バビロンの遺跡(イラク)。数千年前、ここで語られた知恵が、いまも通用する。(Photo: CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons)

① まずは「収入の10分の1」を自分のために取っておく

バビロン一のお金持ち・アルカドが、いちばん最初に教えたルールはこれです。

稼いだお金のうち、少なくとも10分の1は、自分のために取っておきなさい。

給料が入ったら、10枚のうち9枚で暮らし、残りの1枚は「なかったもの」として貯金にまわす。たったこれだけです。

ポイントは、余ったら貯めるのではなく、先に貯めること。ゲームでいえば、冒険に出る前にまずセーブしておくようなものです。残ったお金で生活する――この順番にするだけで、財布は少しずつ、でも確実に太っていきます。

「たった10分の1で何が変わるの?」と思うかもしれません。でもアルカドは言います。少しずつでも貯め始めた人の財布には、不思議とお金が流れ込んでくるようになる、と。

おもしろいのは、10分の1を抜いても暮らし向きはほとんど変わらないという点です。人は手元にあるお金を、あればあるだけ使ってしまうもの。だからこそ、最初にひとつまみ取り分けておくだけで、生活の質を落とさずに、着実に資産の芽を育てられるのです。

② 「必要な出費」と「ただ欲しいだけの出費」を分ける

貯金を始めると、多くの人がこう思います。「10分の1を抜いたら、生活が苦しくなるのでは?」

でも本書はきっぱり言います。欲しいものと、必要なものは、まったくの別物だと。

人の欲望には限りがありません。収入が増えれば、欲しいものも同じだけ増えていく。だから、いくら稼いでも「使いたい欲」に追いつかれてしまうのです。

そこで大事になるのが「予算を立てる」こと。使ってもいい金額をあらかじめ決めておけば、気まぐれな衝動買いにブレーキがかかります。使っていないサブスクや、なんとなく続けている固定費を見直すだけでも、意外と削れるお金は見つかるものです。

③ 貯めたお金を「働かせる」――お金にもうひとり働いてもらう

お金をただ金庫に眠らせておくのは、じつはもったいないこと。本書は、貯めたお金をさらにお金を生む「種」として使いなさいと教えます。

貯めた黄金を働かせれば、それがまた新しい黄金を連れてくる。

これは、畑にまいた1粒の種が、やがて何十粒もの実をつけるのと同じ。お金がお金を呼び、その増えたお金がまた次のお金を呼ぶ。雪だるまが転がるほど大きくなるように、時間を味方につければ、資産はふくらんでいきます。

大事なのは、少額でもいいから「働く場所」にお金を置いてみること。早く始めた人ほど、この雪だるまを大きく育てられます。

「増やす力」。時間を味方につければ、お金は雪だるまのようにふくらんでいく。

本書がすごいのは、この「お金に働いてもらう」という発想を、数千年前の物語の中ですでに語っていること。自分の体は一日24時間しか働けませんが、お金には休みも眠りもありません。あなたが寝ている間も、遊んでいる間も、こつこつと働き続けてくれる――そんなもうひとりの働き手を持てるかどうかが、大きな分かれ道になります。

④ 大切なお金を「守る」――わからないものには手を出さない

お金は、増やすことよりも失わないことのほうがずっと大切です。100かけて増やしても、1回の大失敗でゼロになっては意味がありません。

本書には「黄金の五つの法則」という教えがあり、その中でくり返し警告されるのがこれです。

黄金は、自分がよく知らないものに投資する人から、逃げていく。

SNSやネットで見かける「絶対もうかる」「今だけ」という甘い話ほど、あやしいもの。よく知らないゲームにいきなり大金を課金しないのと同じで、中身が理解できないものには近づかない。これが、お金を守るいちばんの盾になります。

本書には、大金を持ちながらだまされて全財産を失ってしまう人の話も出てきます。共通しているのは、「早く増やしたい」というあせりにつけこまれた点です。判断に迷ったら、その道にくわしい信頼できる人の意見を聞くこと。そして、うますぎる話は「何かおかしい」と一歩引いて考えること。守りを固めてこそ、増やす攻めが生きてきます。

⑤ 自分の「稼ぐ力」こそ、最大の資本

お金を貯めて、増やして、守る。それも大事ですが、本書はもうひとつ、意外な資産に目を向けさせます。それは――あなた自身です。

稼ぐ力を高めることは、いちばん確実な投資である。

同じ仕事でも、スキルや知識が上がれば、もらえる報酬も上がっていきます。これは、ゲームでレベルを上げると強い装備が手に入るのと似ています。本を読む、勉強する、経験を積む。こうした自己投資は、一度身につけば一生あなたから離れません。

学校でも会社でも、学び続ける人のところに、お金を稼ぐチャンスは集まってくるのです。

しかも、この「稼ぐ力」は不景気にも強いのが特長です。株や不動産の値段は下がることがありますが、あなたが身につけた知識やスキルは、値下がりしません。自分という資本を育てることは、どんな時代でも裏切らない、いちばん確実な投資なのです。

⑥ 「未来の自分」に、いまから仕送りをしておく

若いうちや元気なうちは、なかなか実感がわかないもの。でも本書は、将来の自分と家族のために、いまから準備しておくことの大切さを説きます。

たとえば、家賃を払い続けるかわりに自分の住まいを持つこと。あるいは、年をとって働けなくなったときのために、少しずつ備えを積み上げておくこと。

これは、遠くにいる「未来の自分」へ、毎月少しずつ仕送りをしておくようなイメージです。いまの自分がほんの少しがまんするだけで、未来の自分がずっと楽になる。金額の大きさよりも「続けること」が大切で、その積み重ねが、安心できる暮らしの土台になります。備えがある人は、心にも余裕が生まれます。

⑦ 借金は「返せる計画」でコツコツ片づける

本書には、借金まみれだったラクダ商人・ダバシールが、見事に立ち直る物語が出てきます。そのカギになったのが、シンプルなお金の配分ルールでした。

収入の10分の7で暮らし、10分の2で借金を返し、10分の1を自分のために貯める。

ポイントは、借金を返しながらも貯金をやめなかったこと。返済だけに追われると心が折れてしまいますが、少しでも自分のお金が増えていくと、前を向いて続けられます。

借金は、あわてて一気に返そうとしなくて大丈夫。返せる計画を立てて、一歩ずつ。地味ですが、これがいちばん確実な脱出法です。

⑧ 「幸運」は、行動して備えた人のところにやってくる

最後に、この本がくり返し伝える大切なメッセージです。

幸運の女神は、行動する人に微笑む。

チャンスは、待っているだけの人には訪れません。「いつかやろう」と先延ばしにしているうちに、目の前を通り過ぎていってしまう。本書がいちばん残念だと語るのは、「あのときやっておけば」という後悔です。

逆に、日ごろから貯めて、学んで、準備をしている人のところには、幸運がめぐってきたとき、それをしっかりつかむ力が備わっています。特別な才能はいりません。今日からの小さな一歩が、未来の大きな差を生むのです。

私がこの本を読んで感じたこと

この本を読んで一番印象に残ったのは、お金持ちになる方法は、特別な才能や運ではなく、正しい考え方と習慣の積み重ねなのだということでした。

資産形成というと、つい「たくさん稼げるようになってから」「投資の知識が身についてから」と考えてしまいがちです。でもこの本は、まずは収入の一部を、必ず自分のために残すことから始める大切さを教えてくれました。

そして、お金はただ貯めるだけでなく、知識を身につけて安全に働かせることで、将来の安心や自由につながっていく。派手な一攫千金をねらうのではなく、地道に積み重ねることこそが、本当の資産形成なのだと感じています。

資産形成は、特別な人だけがするものではありません。

少額でも今日から始めること、そして続けること。それが、未来を大きく変えていきます。100年近く前に書かれた本なのに、お金との向き合い方は、驚くほど今の時代にも通用しました。これから資産形成を始めようと思っている人、何から手をつければいいか迷っている人にこそ、ぜひ読んでほしい一冊です。この本は、その最初の一歩を踏み出す勇気を与えてくれました。

今日からできる3つのこと

  1. 給料が入ったら、まず10分の1を別の場所へ「先取り」する(残ったお金で暮らす順番にする)
  2. サブスクや固定費を一度書き出して、「本当に必要か」を見直す(欲しいだけの出費を減らす)
  3. 貯めたお金を、少額でもいいので「働く場所」に置いてみる(お金に稼いでもらう第一歩)

お金の悩みは、じつは数千年前から人類が向き合ってきたテーマ。そして、その解決法はいつの時代もシンプルで地味です。派手な裏ワザではなく、あたりまえのことをコツコツ続ける――それこそが、バビロンの大富豪が教えてくれる最強の知恵です。

もっと深く知りたくなった人は、ぜひ本書を手に取ってみてください。物語として読めるので、お金の本が苦手な人でもすらすら読めますよ!


文庫版なので価格も手ごろで、カバンに入れて持ち歩けます。古代バビロンの物語として読み進めるうちに、いつのまにかお金の原理原則が身についている――そんな不思議な一冊です。お子さんやお孫さんが社会に出るときの一冊としても、私は自信を持っておすすめします。

文庫版 バビロンの大富豪
ジョージ・S・クレイソン/大島豊 訳/グスコー出版。1926年刊行、100年読み継がれるお金の古典。古代バビロンの物語で「富を築く原理原則」を学べるオリジナル版の完全文庫化
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