「できるだけ楽をして、たくさん稼ぎたい」。 正直なところ、一度はそう思ったことがある人は多いのではないでしょうか。私もそうです。
でも、もし「楽に稼ぐこと」よりも、もっと大切な働くことの意味があるとしたら? 今回は、そんな問いに物語でこたえてくれる一冊、喜多川泰さんの『いただきます。 人生が変わる「守衛室の師匠」の教え』を、中学生が読んでもわかるくらいやさしく要約します。
著者・喜多川泰さんってどんな人?
喜多川泰さんは、横浜で学習塾を経営しながら、小説を書き続けている作家です。『賢者の書』『手紙屋』『君と会えたから……』など、物語を通して「生き方」や「働き方」を考えさせてくれる作品で知られ、著書の累計は145万部を超えています。
本作『いただきます。』は、2025年2月にAudible(オーディオブック)のオリジナル作品として先に配信され、ランキング1位を獲得。その後、2025年8月にディスカヴァー・トゥエンティワンから書籍として発売されました。
物語のあらすじ
主人公は19歳の翔馬(しょうま)。高校を卒業したあと、定職には就かず、遊ぶお金ほしさにアルバイトを転々としています。
「楽に稼げる」と聞いて選んだ次の仕事は、大学の守衛室の警備員。同年代の大学生たちに見られながら、自分の4倍以上も年上のおじいさんたちと働くことになります。
翔馬の本音は、「お金がたまったらすぐ辞めよう」。 ところが、守衛室で働く松原さん、薮島さん、天野さんという3人の「師匠」と過ごすうちに、彼の世界の見え方が少しずつ変わっていきます。
ここからは、物語に出てくる教えを8つのポイントに整理して紹介します。

① 誰にでもできる仕事ほど、差がつく
守衛の仕事は、門に立つ、見回りをする、あいさつをする……といった地味な作業の連続です。翔馬は「こんな仕事、誰にでもできる」と思っていました。
そんな翔馬に、師匠の松原さんはこう言います。
「だって、誰にでもできる仕事が一番、誰がやるかで差が出るからさ。」
これは会社員にもそのまま当てはまります。たとえば電話の取り次ぎや書類の整理。誰がやっても同じに見える仕事こそ、ていねいさや気配りの差がはっきり出るのです。 「自分にしかできない仕事」を探す前に、目の前の仕事にどう向き合うか。それが第一歩だと教えてくれます。
翔馬はこの言葉に強い衝撃を受けます。それまでの彼にとって、地味な仕事は「つまらない仕事」であり、「自分の価値を下げるもの」でした。でも松原さんの考え方では、まったく逆です。誰にでもできる仕事は、その人の本当の姿が一番あらわれる場所なのです。
② 「仕事の型」は背中で伝わる
松原さんは仕事に厳しい人です。でも、長々と説教をするわけではありません。毎日の立ち姿や、あいさつの仕方、細かい確認の積み重ねで、「仕事の型」を背中で見せるのです。
スポーツの素振りと同じで、基本の動きをくり返し磨いた人ほど、本番で強い。 当たり前のことを、当たり前以上のレベルで続ける。それがプロの働き方なのだと、翔馬は少しずつ気づいていきます。
最初は「なんでそこまでやるんだろう」と冷めた目で見ていた翔馬も、気づけば松原さんのやり方をまねするようになります。教えは言葉よりも、毎日の姿勢から伝わる。職場でも家庭でも、思い当たることがあるのではないでしょうか。
③ 部分ではなく「全体」を見る
薮島さんは、哲学者のような穏やかなおじいさん。物語には「ギンガムくんとゾウちゃん」という不思議なたとえ話が出てきます。
ポイントは、目の前の小さな部分だけを見ていると、全体の姿を見誤るということ。 ゾウの体にぴったりくっついて見ても、見えるのは灰色の壁だけです。でも一歩下がれば、それが大きなゾウだとわかります。
仕事も同じです。自分の作業だけを見れば「ただの見回り」でも、視点を引いてみると、その見回りが大学で学ぶ学生たちの安心を支えていることが見えてきます。
会社でも、自分の担当業務だけを見ていると「この作業に何の意味があるんだろう」と感じることがあります。でも、会社全体、さらには社会全体という大きな絵の中に置いてみると、どんな仕事にも必ず役割がある。全体を見る目を持つと、仕事への向き合い方そのものが変わってくるのです。
④ お弁当から「見えないつながり」を想像する
守衛室で食べるお弁当も、大切な教材になります。
目の前のお米は、誰が育てたのか。おかずの魚は、誰がとって、誰が運んだのか。 そう想像していくと、たった一つのお弁当の後ろに、数えきれない人の働きがあることがわかります。

家計簿をつけると、毎月の支出は「数字」として見えます。でも、その一つひとつの裏には、それを届けてくれた誰かの仕事がある。 想像する力が、感謝と思いやりを生む。これが薮島さんの教えです。
⑤ 「稲妻」という言葉に隠れた命の循環
物語には「稲妻(いなずま)」という言葉の由来も登場します。昔から、雷が多い年はお米がよく実ると言われ、**「稲の妻」から「稲妻」**という言葉が生まれたとされています。

実際、雷の放電によって空気中の窒素が地面に届き、植物の栄養になると言われています。 自然も人も、目に見えないところでつながり合い、命をつないでいる。この感覚が、物語の大きなテーマにつながっていきます。
⑥ 「いただきます」は、覚悟の言葉
いよいよタイトルの意味です。物語の中で語られる「魚との約束」の話は、こんな内容です。
魚は人間に食べられるとき、自分の命を人間に託す。 だから人間は、受け取ったその命を使って、善い生き方をする義務がある。
「いただきます」とは、ほかの命を自分の命に変えさせてもらう宣言であり、「こいつに食べられてよかった」と思ってもらえる生き方をするという覚悟の言葉。

毎日なにげなく口にしている言葉が、こんなに重い意味を持っていたなんて。読んだあと、食卓での「いただきます」の重みが変わります。
⑦ 同じ環境でも、受け取り方で人生は変わる
守衛室には、もう一人木村さんという人物がいます。木村さんは師匠たちの教えに耳を貸さず、不平不満ばかり口にしています。
翔馬と木村さんは、同じ職場で、同じ人たちと働いています。それなのに、一人は変わっていき、一人は変わらない。 違いは環境ではなく、受け取る側の心です。

これはお金の世界にも通じます。同じ給料、同じ情報を手にしても、それを「どうせ少ない」と嘆くか、「どう活かそう」と考えるかで、10年後の姿は大きく変わります。
先取り貯蓄やコツコツ投資も同じです。毎月の金額は小さくても、続けるかどうかを決めるのは、結局「受け取り方」と「心の持ち方」。木村さんの姿は、不満を言うのは簡単だけれど、それでは何も積み上がらないということを、私たちに静かに教えてくれます。
⑧ 働くとは「未来の誰かの笑顔」のために行動すること
3人の師匠は、戦後の厳しい時代を生き抜き、それぞれの分野で活躍してきた人たちです。定年後の今も、守衛の仕事に誇りを持ち、学生たちを温かく見守っています。
彼らが翔馬に伝えたかったのは、**「未来の誰かの幸せのために行動する」**ということでした。
私たちは、たくさんの人の働きや命を「いただいて」生きています。だから今度は、自分が誰かに渡す番。 仕事とは、受け取ったものを未来へ返していくこと。それが、翔馬がたどり着いた答えです。
守衛の仕事も、まさにそうです。学生たちが安心して勉強できるのは、誰かが門に立ち、見回りをしているから。その学生たちが、やがて社会に出て、また別の誰かを支えていく。一人の小さな仕事が、見えないところで未来の笑顔につながっているのです。
「お金のため」だけに働くと、仕事はどうしても「我慢の時間」になりがちです。でも「誰かのため」という視点が加わると、同じ仕事でも意味がまったく違って見えてきます。
(※ここから少しだけ結末にふれます)
物語の終わり、翔馬は「俺も、そうなれますかね。天野さんや松原さんみたいに」とたずねます。天野さんの答えは、
「もうやってるじゃない。」
翔馬は「これから変わる」のではなく、守衛室での毎日の中で、すでに変わり始めていたのです。
この本をおすすめしたい人
この本は、投資のノウハウや節約術を教える本ではありません。正直に言えば、「すぐにお金が増える方法」を探している人には物足りないかもしれません。
でも、資産形成の土台は、毎日の仕事と収入です。そして長く働き続けるには、「何のために働くのか」という自分なりの答えが必要です。
- 今の仕事に、やりがいを感じにくい人
- 「楽して稼ぎたい」と思いつつ、どこかモヤモヤしている人
- 子どもや若い世代に「働く意味」を伝えたい人
そんな人に、ぜひ読んでほしい一冊です。小説なので、説教くささがなく、すっと心に入ってきます。
今日からできる3つのこと
1. 「誰にでもできる仕事」を、いつもより一段ていねいにやってみる あいさつ、メールの一言、書類の整え方。小さな差が、信頼という財産になります。
2. 家計簿の1項目を見て、その裏にいる人を想像してみる 固定費やサブスクの一つひとつにも、それを支える誰かの仕事があります。感謝の気持ちは、お金の使い方を見直すきっかけにもなります。
3. 次の食事で、心をこめて「いただきます」と言ってみる 受け取った命と働きに、どんな生き方でこたえるか。たった一言が、明日の働き方を変えるスタートになります。
働くことに迷ったとき、そっと背中を押してくれる物語です。 気になった方は、ぜひ『いただきます。』を手に取って(または耳で聴いて)みてください。
書籍のほか、Kindle版や、もとになったAudible版(約7時間)でも楽しめます。
「働くことの意味」をもっと考えたくなった方には、同じ喜多川泰さんの代表作もおすすめです。就職活動に出遅れた大学4年生が、謎の「手紙屋」と10通の手紙をやりとりするうちに、働くことの意味を見つめなおしていく物語です。
※本記事は書籍の要約と筆者の解釈を含みます。
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