なぜ「まじめに働く人」ほどお金が残らないのか?──橘玲『新版 お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』をやさしく要約
「毎月まじめに働いて、無駄づかいもしていない。それなのに、なぜか手元にお金が残らない」 そう感じたことはないでしょうか。実はそれ、あなたの努力が足りないからではないかもしれません。 今回ご紹介するのは、橘玲さんの『新版 お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 知的人生設計のすすめ』(幻冬舎文庫)です。 著者の橘玲さんは2002年に国際金融小説『マネーロンダリング』でデビューし、同じ年に出た本書の初版は30万部を超えるベストセラーになりました。その後12年ぶりに全面改訂され、2017年に文庫版として生まれ変わったのがこの一冊です。 タイトルにある「黄金の羽根」とは何なのか。それは、制度の歪みがもたらす幸運のこと。知っている人だけが拾えて、拾った人には大きな利益をもたらす。そういう羽根が、実は私たちの足元にたくさん落ちている、という話です。 ちょっと過激に聞こえるかもしれませんが、中身は驚くほど地に足がついています。今日はこの本の要点を、8つに絞って紹介します。 1. お金持ちになる方法は、世界にたった3つしかない この本の出発点は、シンプルな一本の式です。 資産形成=(収入-支出)+(資産×運用利回り) つまり、お金を増やす方法は「収入を増やす」「支出を減らす」「利回りを上げる」の3つしかない。裏ワザも近道もなく、これがすべてです。 大事なのは、この3つの効きやすさが全然違うということ。収入を上げるのは時間がかかり、利回りは自分ではコントロールできません。一番確実なのは支出を減らすことです。 2. いちばん強い資産運用は「共働き」 本書が強調するのは、世帯単位で考えることの重要性です。 1億円の資産保有を経済的独立と定義すれば、特別な才能がなくても、勤勉と倹約、それに共稼ぎで目標に到達できると著者は言います。 夫婦がそれぞれ年収400万円なら世帯年収は800万円。生活費は一人暮らし二人分より安く済みます。この「差額」が、どんな高利回り商品よりも確実に効いてきます。 考えてみてください。年収400万円の人が定年まで働けば、生涯で1億円を超えるお金を稼ぎます。つまり私たちは全員、1億円規模の資産をすでに持っているとも言えるのです。人的資本(働いて稼ぐ力)こそが、多くの人にとって最大の資産。投資商品を探す前に、この資産をどう活かすかを考えるほうが、はるかに効率がいいわけです。 3. 支出を減らすとは「税金と社会保険料」に目を向けること 節約というと、食費や電気代を思い浮かべます。でも本書が問題にするのは、給与明細から天引きされている税金と社会保険料です。 額面30万円でも、手取りは24万円ほど。差の6万円は、多くの人が「見なかったこと」にしています。年間にすれば72万円。これは家賃とほぼ同じ規模です。支出の中で最大の項目は、実は税と社会保険料。ここを直視することが出発点になります。 スーパーで10円安い卵を探すのは熱心なのに、月6万円の天引きは一度も計算したことがない。多くの人がそうなっているのは、給与から自動的に引かれる仕組みだからです。痛みを感じないように設計されている、と言い換えてもいいかもしれません。だからこそ、意識的に見にいかないと一生見えないコストなのです。 4. 運用は「リターン」ではなく「コスト」で決まる 投資について、本書の結論は拍子抜けするほど地味です。投資のリターンを常に高く保ち続けるのは不可能なので、コストを下げることで実質的な利回りを上げるのが確実だというもの。 投資のコストに気づかない人は、お金持ちになれない 手数料の高い銀行や証券会社の窓口ではなく、手数料の低いネット証券を使うことがすすめられています。年1.5%の手数料は、20年で資産の3割近くを削ります。リターンは運任せ、コストは自分で決められる。ならばコストに集中すべきです。 5. 持ち家は「レバレッジをかけた不動産投資」 「家賃はもったいない、買ったほうが得」──よく聞く話です。 しかし本書は、住宅ローンを組んで家を買う行為を、借金をして不動産に集中投資することだと言い切ります。頭金500万円で5,000万円の物件を買えば、10倍のレバレッジをかけているのと同じ。価格が1割下がれば頭金は消えます。 ローンで買った持ち家と賃貸は、手元に残るかどうか以外、資産としての価値は同じという指摘は冷静です。 さらに厄介なのは、持ち家が分散のきかない一点集中投資だということ。株式なら世界中の企業に分けて持てますが、家は「その街のその一戸」にすべてを賭けることになります。しかも住んでいる限り、値下がりしても簡単には売れません。 本書は「家を買うな」とは言っていません。ただ、人生で最も大きな投資判断をしているという自覚を持てということです。「みんな買っているから」で数千万円を動かすのは、さすがに危うい。 6. 生命保険は「損をすること」に意味がある 保険は、加入者全体で見れば必ず損をする仕組みです。集めた保険料から会社の経費と利益を引いた残りしか払い戻されないからです。 では無意味かというと、そうではありません。保険の役割は、めったに起きないが、起きたら生活が崩壊する事態にだけ備えること。 だから貯蓄型保険で「損しない」ようにするのは的外れで、掛け捨てで必要な保障だけ買い、浮いたお金は自分で運用するほうが理にかなっている、というのが本書の立場です。 7. サラリーマンは「個人と法人」を使い分けられない この本の核心が、ここです。 サラリーマンと個人事業主の決定的な違いは、会計・税務・ファイナンスという、お金の根幹の業務を会社に委託してしまっているかどうかにあります。だからサラリーマンは、税や社会保険料を自分でコントロールできません。 日本の税制では自営業者や中小企業が実質的に優遇されており、いわゆる「お金持ち」の多くは成功した自営業者か中小企業の経営者です。本書はここに制度の歪み、つまり黄金の羽根を見つけ、マイクロ法人(一人会社)を立てて「個人」と「法人」ふたつの人格を使い分けるという方法を詳しく解説します。 もちろん誰にでもすぐできる話ではありません。ただ、会社員という働き方が制度上どういう位置にあるのかを知っておくことには、大きな価値があります。 8. 知識社会では「スペシャル」に賭ける 最後は働き方です。本書が描く現代は、グローバル化した知識社会。個人そのものが力になり、そこから富が生まれる社会です。 だからこそ、人的資本を最大化するには、広く浅くではなく専門性に特化することが重要になります。誰でもできる仕事は代替されますが、その人にしかできない仕事には価格がつきます。 ここでいう専門性は、難関資格を取れという話ではありません。「この分野なら、あの人に聞けばいい」と周囲から思われている状態をつくることです。今の職場で自分が何の担当として認識されているか。それが自分の値札になります。 そして本書全体を貫くのは、国家は敵でも味方でもなく、人生を最適設計するための道具にすぎないという視点です。制度を恨むのでも従うのでもなく、理解して使う。それがこの本の姿勢です。 私がこの本を読んで感じたこと 正直に言うと、この本は読んでいて少し居心地が悪くなります。「知らなかった自分」を突きつけてくるからです。 私自身、資産形成の中心はインデックス投資です。本書の「コストに集中せよ」という主張は、まさに自分がやってきたことの答え合わせでした。相場を読むのをやめて、手数料の低い商品を淡々と積み立てる。地味ですが、これ以上に再現性の高い方法を私は知りません。 一方で、不動産の章は身につまされました。私は賃貸経営もしていますが、実際にやってみると、家賃が入ってくる喜びの裏に、修繕、空室、入居者対応といった現実の負担が確かにあります。不動産は「持っているだけで儲かる資産」ではなく、手間と判断が伴う事業です。本書がマイホームを「レバレッジをかけた投資」と呼ぶのは、決して大げさではないと感じます。 そして一番刺さったのは、税と社会保険料の話でした。 知らないことは、それ自体がコストになる 制度は、知っている人に有利にできている。それを不公平だと嘆いても何も変わりません。できるのは、まず知ることだけです。この本は、そのスタート地点に立たせてくれる一冊でした。 ...