お金と僕の12年戦争・第11話

――「節税」と引き換えに、お金を60歳まで縛るという選択

前回まで、私はNISA、そして子どもたちのジュニアNISAという「非課税の器」に資産を積み上げてきた話をしてきた。今回はその隣に、私たち夫婦がもう一本立てた柱――iDeCo(個人型確定拠出年金)の話をしたい。拠出を始めたのは 2021年8月。同じ月に、夫婦そろってのスタートだった。あれから何度かの制度改正をくぐり抜けて、今に至っている。

正直に言えば、iDeCoは「いいことずくめの制度」ではない。節税という強烈な入口の裏に、60歳まで引き出せないという縛りがある。だからこそ今回は、メリットを5つ、デメリットを5つ、できるだけフラットに並べたうえで、私が一番悩んでいる「出口」の話まで踏み込んでみる。

コツコツ積み立てた掛金が、長い時間をかけて「もう一本の柱」に育っていく。(Photo: Free Images / CC BY 2.0, via Wikimedia Commons)


そもそも、いまのiDeCoはどんな制度か(2026年時点)

iDeCoは、自分で掛金を出し、自分で運用し、原則60歳以降に受け取る私的年金だ。国が用意した公的年金(国民年金・厚生年金)の上に、自分で積み増す3階部分、と言うとイメージしやすい。

  • 3階:iDeCo・企業年金など(私的年金) ← iDeCoはここ
  • 2階:厚生年金(会社員・公務員=第2号)
  • 1階:国民年金(基礎年金)(20歳以上のほぼ全員)

1階・2階は国が用意する公的年金、3階は自分で積み増す私的年金。厚生年金(2階)を持たない自営業(第1号)ほどiDeCoの枠が大きいのは、「足りない階を自分で補う」という制度の発想からだ。掛金の上限は、自分がどの被保険者にあたるかで決まっている。

区分 月額の上限
第1号(自営業など) 68,000円(国民年金基金・付加保険料と合算)
第2号・企業年金なし(会社員) 23,000円
第2号・企業型DCに加入 20,000円
第2号・DB等に加入/公務員 20,000円
第3号(専業主婦・主夫) 23,000円
加入できる年齢 原則 65歳未満(国民年金の被保険者であること)
受け取りを始める時期 60〜75歳 の間で自分で選ぶ

そして大事な「これから」。2026年12月(2027年1月の拠出分)から大きな改正が控えている。第1号は月75,000円、第2号は企業年金と合算で月62,000円まで引き上げられ、iDeCo単体の上限という考え方は他制度との合算上限に一本化される。加入できる年齢も70歳未満まで広がる。私たちが積立を始めてからの数年で、受給開始年齢の拡大(2022年)など制度はじわじわ使いやすくなってきた。その流れの、今のところの到達点がこれだ。

「とりあえず始めて、改正のたびに少しずつ得をしてきた」――結果論だが、早く動いた者だけが受け取れたボーナスだったと思う。


iDeCoのメリット 5つ

  1. 掛金が全額、所得控除になる これが最大の入口。払った掛金はまるごと「小規模企業共済等掛金控除」の対象になり、その年の所得税と翌年の住民税が軽くなる。運用の上手・下手に関係なく、拠出した時点で確定するリターンだ。
  2. 運用で増えた分に税金がかからない 通常の投資なら利益に約20.315%課税されるところ、iDeCoの中では非課税。増えた分がそのまま再投資にまわり、複利がより効く。
  3. 受け取るときにも控除がある 一時金で受け取れば「退職所得控除」、年金で受け取れば「公的年金等控除」の対象。入口・運用中・出口の3か所で税優遇が用意されている。
  4. いやでも貯まる仕組み 原則60歳まで引き出せない。一見デメリットだが、裏を返せば老後資金を“手をつけられない場所”に確保できるということ。意志の弱さを制度で補える。
  5. 低コストで長く積み立てられる 運営管理手数料が無料の金融機関を選び、低コストのインデックスファンドを積み立てれば、NISAと並ぶ非課税運用のもう一本の柱になる。

iDeCoのデメリット 5つ

  1. 原則60歳まで引き出せない 最大の弱点。教育費や住宅費など、人生の途中で必ず訪れる大きな出費とは“取り合い”になる。生活防衛資金やNISAとの配分を間違えると、家計が苦しくなる。
  2. 手数料がかかる 加入時に2,829円、さらに毎月最低でも171円(国民年金基金連合会105円+信託銀行66円)。運営管理機関の手数料は無料のところもあるが、ゼロにはできない固定費だ。
  3. 元本割れの可能性がある 自己責任で運用する制度なので、選んだ商品次第では資産が掛金を下回ることもある。NISAと同じく、ここは引き受けるべきリスク。
  4. 所得が少ないと節税の旨みが薄い 最大のメリットである所得控除は、そもそも納める税金があってこそ効く。専業主婦・主夫など所得がない人は、入口の節税効果がほとんど得られない。
  5. 出口(受け取り方)の設計が複雑 退職所得控除や公的年金等控除の組み合わせ、勤務先の退職金との関係――ここを詰めずに60歳を迎えると、せっかくの非課税が出口で目減りしかねない。次の章で掘り下げる。

出口での注意点 ―― 「もらい方」で手取りが変わる

iDeCoは「貯める・増やす」ところまでは情報が多いのに、「どう受け取るか」になると急に静かになる。だが手取りを左右するのは、むしろ出口だ。受け取り方は大きく3つある。

  • ① 一時金(まとめて):「退職所得」として扱われ、退職所得控除の対象。控除後の半分にだけ課税されるので、税の優遇は大きい。
  • ② 年金(分割して):「公的年金等控除」の対象。ただし受給期間中も手数料がかかり、公的年金と合算されて課税される点に注意。
  • ③ 併用:一部を一時金、残りを年金で。両方の控除を組み合わせて最適化できる余地がある。

退職所得控除は加入期間(=勤続年数に相当)で決まる。20年以下は1年あたり40万円、20年を超えた分は1年あたり70万円。さらに、控除を引いた残りの 「半分」だけ が課税対象になる。具体的に見てみよう。

例1:加入15年・一時金600万円 控除=40万円×15年=600万円。課税対象=(600万−600万)×1/2=0円(まるごと非課税)

例2:加入25年・一時金1,200万円 控除=800万円+70万円×5年=1,150万円。課税対象=(1,200万−1,150万)×1/2=わずか25万円

このとおり、一時金は控除の枠に収まればほとんど税金がかからない。ただしこれは 退職金が別にない場合 の話。勤務先の退職金と近い時期に受け取ると、次の「10年ルール」が効いてくる。

【最重要】退職金との「10年ルール」

ここがいちばんの落とし穴。勤務先の退職金とiDeCoの一時金を 近い時期に両方 受け取ると、退職所得控除の重複期間が調整され、控除が目減りしてしまう。

かつては「5年空ければOK」だったが、2026年1月1日以降に受け取る一時金からは「10年ルール」 に変わった。iDeCoの一時金を先に受け取り、その後に退職金をもらう場合、10年以上 空けないと控除をフルに使えない。逆に退職金が先・iDeCoが後の場合は「20年ルール」(こちらは従来どおり)。

現実には「60歳でiDeCo→70歳で退職金」という10年待ちはなかなか難しい。だからこそ、自分(と妻)の退職金の有無・金額・受け取り時期をふまえ、年金受取や併用も含めて 早いうちにシミュレーションしておく 必要がある。

入口の節税に喜んで終わるのではなく、出口の地図まで描いて初めて、iDeCoは「得な制度」になる。


私と妻の、2021年8月

私は会社員(第2号被保険者)で、勤務先に確定給付企業年金・厚生年金基金がある。そのため2021年8月当時の私のiDeCoの上限は、月12,000円だった。妻は私の扶養に入っている第3号被保険者で、上限は月23,000円。私たちは正直なところ深く考えず、それぞれの「上限いっぱい」――私は12,000円、妻は23,000円で走り出した。

ところが、ここから初めて「考える」ことになる。きっかけは2024年1月に始まった新しいNISAだ。非課税枠が大きく広がり、格段に使いやすくなった。それを機に、妻のiDeCoを根本から見直した。

妻は扶養に入っているので、iDeCo最大の武器である「掛金の所得控除」が、そもそも効かない。さらに出口を見据えると、妻にはこれまで積み上げてきた 小規模企業共済 の残高があり、そこへiDeCoの残高が乗る。どちらも受け取り時は「退職所得控除」を使う資産――同じ枠を奪い合えば、出口で課税されかねない。

ならば、所得控除も出口の縛りも気にせず使えるNISAに資金を回したほうがいい。そう判断して、妻のiDeCo掛金は月5,000円まで減額 した。一方、私の掛金は 12,000円のまま、今も淡々と続けている。

投資先は、私が「楽天全米INDEX楽天DC」、妻が「楽天全世界INDEX楽天DC」。約5年、ただ積み立ててきただけの結果が、これだ。

ファンド 評価額 取得価額 評価損益
楽天全米INDEX楽天DC(私) ¥1,216,921 ¥695,214 +¥521,707(+75.04%)
楽天全世界INDEX楽天DC(妻) ¥1,923,986 ¥1,020,214 +¥903,772(+88.59%)
夫婦合算 ¥3,140,907 ¥1,715,428 +¥1,426,479(+83.2%)

※ JIS&T(確定拠出年金)個人型の口座画面より。2026年6月時点、2口座の合計。

始めてからの数年で制度は何度か変わり、そのたびに少しずつ追い風が吹いた。そして2026年末には限度額の大幅引き上げも控えている。ただ――喜んでばかりもいられない。10年ルールを知った今、私の関心はもう「入口」から「出口」へ移りつつある。妻の判断が、その予行演習だったのかもしれない。

その「出口」を見据えて、私自身は妻とは逆のことを考えている。私の場合、勤務先から見込まれる退職金はそれほど多額ではない。裏を返せば、出口で使える退職所得控除の枠に、わりと余裕が残るということだ。退職金で枠を使い切らないなら、iDeCoの一時金にも控除の余地が残る。

しかも入口では、会社員の私は所得税・住民税を納めている。妻と違って「掛金の全額所得控除」がしっかり効く。毎年、確実に税金が軽くなる――このメリットは大きい。だから2027年1月から始まる限度額の引き上げ(私の枠も大きく広がる)を機に、退職所得控除との兼ね合いを見ながら、掛金の 増額 を検討している。

妻は減らし、私は増やす。同じ家計でも、立場が違えば答えは正反対になる。「人によって最適解は違う」とはよく言うが、我が家はそれを文字どおり地で行っている。

ただ淡々と積み立てた数年が、いつのまにか老後を照らす「もう一本の柱」になっていく。(Photo: Ding / CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons)

ただ淡々と、毎月積み立ててきただけ。それなのに、振り返るとこれほどの「力」になっている。コツコツとは、こういうことか――と、静かに感心している。


iDeCoは、入口の節税の派手さに比べて、出口の設計が驚くほど語られない制度だ。とりわけ「退職金との10年ルール」や受け取り方の組み合わせは、自己流だと判断を誤りやすい。私自身も、迷うたびにこの一冊を開いて確認している。制度改正のたびに改訂されてきた定番で、はじめての人にも、私のように「出口」で悩み始めた人にも、まず手元に置いてほしいガイドだ。

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◆ この回の教訓

  • iDeCo最大の武器は「掛金の全額所得控除」。ただし所得のない人(扶養内など)には効きにくい
  • 最大の弱点は「60歳まで引き出せない」。生活防衛資金・NISAとの配分を間違えない
  • 入口だけでなく「出口(受け取り方)」まで設計して、初めて得な制度になる
  • 退職金との「10年ルール」は要注意。受け取り時期を早めにシミュレーションする
  • 同じ家計でも、立場が違えば最適解は逆になる――「妻は減らし、私は増やす」

― 次回予告 ―

NISA、ジュニアNISA、そしてiDeCo。「増やす力」の器がひととおり揃ってきた。次回は趣を変えて、もう一つの柱――不動産の話を。以前住んでいた戸建を貸し出した一軒目、そしてリベ大のYouTubeを参考に挑んだ築古戸建の二軒目。私の「戸建賃貸業」を書いていく。


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